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□メーデー
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−もし、オレがこの眼を失くしたら……。
時々、そんなバカみたいなことを考えることがある。
オレは緑間みたいなシュートが打てるわけでも、先輩たちのように血の滲む努力を続けてきたわけでもない。
ただちょっと特殊な目を持っているだけ。
それ以外に大した特技もない。
だから不意に漠然とした不安を覚える。
強豪と謳われる秀徳高校バスケ部に、オレは必要ないんじゃないかって。
オレの代わりなどいくらでもいるのではないか、と。
「和成が鷹の目を失ったら、ねぇ」
いつだったか、それを未琴に話してみた。
そうしたら目の前のコイツは、読みかけの本から目を逸らすこともなく、事も無げに言葉を紡いだ。
「そうしたら、私が手を引いてあげるよ」
「……え?」
「ふらふら迷子になった和成を見つけて、私が手を引いてあげる」
「未琴……」
「そんで、こわーい宮地先輩に轢かれちゃえ」
いつの間にか未琴の強い瞳がオレを見つめていた。
その瞳と言葉に、オレは声が出ない。
未琴はオレを見つけてくれると言った。
どんなオレでも、同情するでも慰めるでもなく、ただ存在を認めてくれると。
「心配しなくても、和成が頑張っていることは知ってるよ。私も、みんなも」
「……」
「少しはチームメイトを信じなさいよ。ばかずなり」
「……ああ。さんきゅ、未琴」
「ん。…………それから、」
―少しくらい私を頼って。
抱き着きながら小さく零れた未琴の本音。
彼女なりの不安のサイン。
オレはもう十分すぎるほど未琴を頼っているつもりなんだけどな。
弱みを見せられるのなんて未琴くらいだし。
けどコイツが気付いていないなら何度だって伝えてやる。
まあでも、きっと口で言ったって伝わんないんだろ?
「未琴」
「何、和な……んっ」
「オレはお前が笑っててくれれば十分」
「……バカ」
未琴が何かを呟いたと思ったら二人の距離がゼロになる。
すぐに離れていく未琴の顔に目を見開くオレに、未琴は綺麗な笑顔をくれた。
―私だってそうよ。
(それは)(強がりな二人の)(見えない救難信号)