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□指先からとける
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ピッ
「痛っ……」
部活の合間をみてプリントの整理をしていたら、突然指先にピリッとした痛みが走った。
じんじんと痛むそこには赤い線が走っていて、じわりと血が滲んでくる。
このままじゃプリントを汚してしまうと思いながらも、絆創膏なんて女子力の高いもの、残念ながら私は持ち合わせていない。
「確か救急箱が……」
「未琴ちゃん、そろそろ休憩ー……って、大丈夫?」
「あ、春日先輩。これくらい舐めておけば大丈夫ですよ」
「そう?」
「はい。ドリンクですよね?すぐに運ぶので先に戻っててください」
そう春日先輩に告げてひとまずドリンクの準備に取り掛かった。
とはいってもあとは運ぶだけなんだけど。
私は最終チェックをして体育館に向かおうとした……ら、勢いよく右手が引っ張られた。
「ちょっ、春日せんぱっ……いっ?!」
「んー?」
「な、にして……っ」
春日先輩はひったくった私の右手の人差し指を、躊躇することなく口にくわえた。
思わず手を引こうとするも、先輩の強い力にそれは叶わなかった。
「だって、舐めておけばいーんでしょ?」
傷口を舐めながら小首を傾げて目を細める春日先輩。
その姿がひどく妖艶で、ざらりと伝わってくる舌の感覚にやましくもないのに顔が火照ってきた。
時折見える赤い舌が背徳感をさらに掻きたてる。
「かす、がせんぱ……も、もうっ」
「ちゃんと消毒しないとダメだよ?あ、それとも……」
―感じちゃった?
わざとらしく聞いてくる春日先輩は本当に意地が悪い。
そう仕向けたのは自分だというのに。
私は羞恥で視界がぼやけてきた。
「涙目もそそるけど、今は我慢だなぁ」
「わ、私っ、そんなつもりじゃ……」
「わかってるよー。それはオレのほう」
ドリンクは運んでおくから、その顔で出て来ちゃダメだよー。そう言って部室を出る春日先輩の上機嫌な背中を私は見送ることしか出来なかった。
言われなくても腰が抜けてしばらくここから動けそうにない。
(で、盗み聞きかな?津川)(げっ!そ、そんなつもりは……)(ふぅん、まあいいやー。はい、ドリンクね)(っす)