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□君の呼吸を頂戴
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雪は好き。
真っ白に染まった銀世界は綺麗で、私まで純粋になれる気がするから。
そして恥ずかしがり屋な貴方と手を繋ぐことが出来るから。
滑るから危ねーぞ。なんて、そっぽを向きながら差し出される宮地先輩の手が愛おしい。
でも、雪は嫌い。
すぐに解けてなくなってしまう不確かなものだから。
それに、この雪が解けてしまう頃には貴方はもう……。
「考え事か? 」
「え……?」
「上の空だった」
「ご、ごめんなさい」
「別に。で、どうしたんだよ?」
私を見下ろす宮地先輩は真剣で、瞳には心配の色が滲んでいる。
言っても、いいのだろうか。
ううん、きっと言っちゃダメ。
だってこれは、宮地先輩にも私にもどうすることも出来ないことだから。
「宮地先輩、志望校って決まってるんですか?」
結局、口から零れたのは当たり障りのない言葉。
宮地先輩は探るように一瞬だけ目を細めながらも、質問に答えてくれた。
「さすがにこの時期だからな。決まってねーとヤバいだろ」
「そう、ですよね。……どこを受験するんですか?」
「K大」
「K大……」
K大って言ったら、都内でも指折りの大学だ。
やっぱり私なんかとは頭の出来が違う。
まあ宮地先輩の場合、努力で得たものなのだろうけど。
「それで?」
「は、い?」
「悩み事は本当にそれだけかよ」
階段を下りているとき、宮地先輩が振り返って尋ねてきた。
数歩前を歩いていた先輩と、同じ高さで視線がぶつかって目が逸らせない。
上手く誤魔化せたと思ったのに、どうしてこの人は気付いてしまうのだろう。
悩んでいるなんて一言も言っていないのに。
私は吸い込まれるように、ほぼ無意識に普段より近くにある顔に口付けた。
目を見開く宮地先輩は何だか新鮮。
「宮地先輩」
「んだよ、急に」
「好きです」
「知ってる」
「先輩は…………っんぅ」
急に繋いだ手を引かれたと思ったら至近距離に宮地先輩の顔。
すぐに離れたそれは私の耳元で止まった。
抱き締められている身体が熱い。
「なあ、未琴」
「何ですか?」
「K大の隣り、女子大あるから」
「えっ?」
「待っててやっから、浮気したらマジ埋める」
「ふふっ。じゃあ宮地先輩が浮気したら、木村先輩んちの軽トラで轢きますから」
お互い、物騒なことを言いながら笑い合う。
ふと目が合って、どちらからともなくキスをした。
(重ねた唇から)(融けてしまえばいいのに)(そうすれば)(別れなんて来ないのに)