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□1日の終わりにアナタの声を
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未琴は本当によく出来た彼女だと思う。
アイドルを目指す俺を笑顔で応援してくれるし、なかなか会う時間を作れなくても文句一つ言わない。
わがままなんて言われたことがない。
俺はそれが申し訳なくて、時折不安になる。
プルルル……プルルル……
「未琴?」
「あ、翔くん。夜遅くにごめんなさい」
「いや大丈夫。どうしたんだ?」
「あの、えっと……」
部屋に響いた機械音に携帯のディスプレイを見れば、丁度考えていた人物の名前が表示されていて自然と頬が緩む。
次いで少し高めの愛らしい声が聞こえてきたときには、これが電話でよかったと切実に思うほどだらしない表情をしてしまったのは不可抗力だと思う。
珍しい未琴からの電話に用件を尋ねれば、なぜか言葉を詰まらせてしまった。
「未琴?」
「翔くんの……声が、聞きたくて」
「っ!!」
「ごめんなさい。迷惑、だったよね」
「そんなことねぇよ!む、むしろ俺は嬉しいぜ」
「本当?」
「ああ」
「よかった……」
やばい。
未琴可愛い。
俺は今すぐ未琴を抱きしめたい衝動に駆られながらも、それが出来ない現実に地団駄を踏みたくなった。
今から……はさすがに迷惑になるよな。
いやでも未琴可愛い。
「翔、くん」
「ん?」
悶々と考える俺の思考をストップさせたのは、遠慮がちに名前を呼ぶ未琴の声だった。
「……たい」
「え?」
「会いたいよ。翔くん」
「未琴」
「本当はね、わかってるの迷惑だって。一生懸命頑張ってる翔くんの応援をしなくちゃいけないって。わがままなんて言っちゃいけないんだって。でも!でもね……すごく、会いたい」
普段の未琴からは考えられないほど饒舌に、初めて自分の気持ちを吐露してくれた彼女に嬉しさが込み上げる。
もう次の休みなんて待ってらんねぇよ。
俺だって未琴に会いたいんだ。
「俺もお前に会いたい。…………今から行ってもいいか?」
「え?でも、明日お仕事……」
「仕事より未琴優先。俺は今、未琴に会いたいんだよ 」
「わ、わたしも……翔くんに会いたい」
離れた二人の距離を、今日ほど憎く思ったことはない。
でもまあ、未琴のわがままが聞けたことだしよしとするか。
(会いたかった、未琴 )(愛しい君を抱きしめて)(今日を終えようか)