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□おひさま少年
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「ねぇ、音也。ぎゅーってして?」
「いいよ。未琴、こっちおいで」
無邪気に笑って手を伸ばす音也に近付けば、優しい温もりに包まれた。
毎度のことながら、あったかいその腕に幸せを感じる。
「ふふっ」
「未琴?どうしたの」
「音也の匂いがする」
「俺の匂い……って、どんな?」
「あったかい太陽みたいな匂い。…………すごく、落ち着く」
音也の胸板に擦り寄れば、私を抱きしめる力が強くなった。
「それなら未琴はひまわりね」
「向日葵?」
「うん。未琴には、ずっと俺だけを見てて欲しいから」
「音也……」
「わっ!おっ俺、今スゴくガキみたいなこと言っちゃった」
音也は真っ赤に顔を染めながら恥ずかしそうに頬を掻き、片手で私を抱き寄せる。
顔は見えなくなってしまったけれど、いつもより速い心拍数は正直だった。
素直な音也が愛しくてたまらない。
だから些細なこの時間が、すごくすごく幸せ。
「やっぱり、音也が太陽は嫌かも」
「何で?」
「だって……太陽は皆のものだから。私なんか沢山の花に紛れちゃう」
馬鹿げたことを言っているのは自分でもわかってる。
けれども音也は、そんな私の言葉を笑うことなく聞いてくれた。
「世界中にどれだけ多くの花があっても、俺は未琴を選んだんだよ。だから、どこにいたって君を見つけてみせる」
アイドルを目指す音也にはあるまじき台詞だけど、私は涙が出そうなくらい嬉しかった。
(大好きだよ、音也)(俺も未琴が好きだよ)(おひさま少年)(ひまわり少女)