君影草
□02
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―兄貴はいつもそうだ。
「あいつは大事なことは全部一人でやるから」
見兼ねた白子が声を掛けても、悔しそうに表情を歪めて一人考え込む。
昔は違った気がするのに、一体いつからだろうか。
両親が死んでからか……。
―足手まといはいらねぇ。
考えても答えが出るはずもなく、募った苛立ちを込めて天火の顔が描かれた人型に刀を振り下ろす。
「子供扱いしやがって」
「兄上にとったらまだ子供よ」
「悔しいんだ。兄貴に勝てない事が。……兄貴に頼ってもらえない事が」
「空丸……」
自分の思いを吐き出す空丸に、鈴蘭と白子は困ったように眉を寄せた。
彼の気持ちだって分からなくはない。
それでも天火の肩を持ってしまうのは、自分達も空丸や宙太郎の心配をしているから。
彼らにはまだ背負わせたくないと考えているから。
空丸も、守られていることは理解しながら、兄に認めてもらえた気がしたという思いも交差して落ち着かなくなる。
「(やっぱりじっとしてられねぇ!!)」
「あ、空丸!」
突然走り出した空丸を鈴蘭が呼び止める。
しかし聞こえていないのか、聞いていないのか空丸の足は止まらなかった。
「鈴蘭。とりあえずこれを片付けてしまおう」
「白子……」
「大丈夫だよ。空丸達なら」
何の根拠のない慰めなのに、優しく笑う白子を見ていたら胸に広がる不安が薄れた気がした。
それもそうね。と笑みを零す鈴蘭は、白子に続いて台所へ向かった。
「空丸」
「姉貴、白子さん。留守番頼みます」
「……」
「止めんで下さいよ。俺等だって曇の男だ」
台所に戻ったところで、家を出ようとする空丸と宙太郎に会った。
空丸の決意に満ちた瞳に、鈴蘭は見逃す事しか出来なかった。
「空丸、宙太郎……」
「はいっス!いだだだっ」
「怪我はしないように。今みたいに消毒液が滲みることになるわよ」
「わ、わかったっス!」
先程出来なかった手当てをしようと、宙太郎に無理矢理ガーゼを押し当てる。
そして涙目になりながら元気な返事をする宙太郎と、青い顔でそれを見つめる空丸に優しい笑顔を向けた。
「どうか、無事に帰って来てちょうだいね」
「ああ」
「いってらっしゃい」
鳥居を潜る二人を鈴蘭は複雑な瞳で見送った。
「やはり、血は争えないのね」
「そうだな。やっぱりお前の弟だよ、天火」
そう云って、二人は夕食の準備と境内の掃除にそれぞれ向かった。