plan
□真っ直ぐに不器用
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伊月先輩が告白されたらしい。
そう噂で聞くのはもう何度目になるのかわからない。
そして、それと一緒に流れる噂も耳を塞ぎたくなるほど聞いた。
「ねえ、伊月先輩またコクられたらしいねー」
「あー知ってる!でも彼女がいるからってフったんでしょ?」
「そうそう。聞いても教えてくれないらしいし、誰なんだろうねぇ」
「他校にいるのかな?」
「さあ?」
それは私です。って、声を大にして言えたらどんなにいいか。
生憎、そんなことを言う勇気は私にはないけれど。
そもそも、どうして伊月先輩は私が彼女だと言ってくれないのだろう。
廊下ですれ違っても挨拶を交わすだけだし、この前プリントを渡しに行ったときは事務的な会話だけで終わってしまった。
カントクのリコ先輩とは楽しそうに喋っているのに……。
最近では伊月先輩の彼女だと、胸を張って言える自信がない。
私なんかより可愛い人は沢山いるし、いつかサヨナラを言われるんじゃないかって不安になる。
「未琴ちゃん」
「リコ先輩……」
「悩み事なら聞くわよ?」
「え、でも」
「もうっ!未琴ちゃんがそんな暗い顔してるとみんなの士気に関わるのよ。特に伊月くん」
さっ、話聞いてあげるから。と引きづられるまま部室へと連れて来られた。
背にしたドアの向こうから、ドリブルする音やバッシュのスキール音が聞こえてきて申し訳なくなる。
「向こうは気にしなくていいわよ。日向くんに適当に頼んであるから。……それで、伊月くんのこと?」
「は、い。私……伊月先輩の彼女でいる自信がなくて」
「それはどういうことかしら?」
「先輩、学校で会っても素っ気ない気がするんです。告白されても、彼女がいるって言うだけで私だとは言ってくれないみたいですし」
思っていたことを口にしたら、その事実が重くのしかかってきた。
リコ先輩の手前、泣くなんて迷惑はかけられないけど。
「あの馬鹿たれ何やってんのよ……」
「え……?」
「ううん、こっちの話!それより、未琴ちゃんは何も心配しなくていいと思うわよ」
「そう、ですか?」
「ええ。伊月くんだって……」
「カントク!悪ぃ来てくれるか」
「ちょっとごめんね。すぐ戻るわ」
日向先輩に呼ばれて部室を出るリコ先輩。
一人になった部屋で、さっきの言葉を思い返す。
―心配しなくていい、か……。
そうは言われてもやっぱり不安は拭えない。
伊月先輩の言葉で聞かなくちゃ、私にはわからない。
がちゃ
その後すぐにリコ先輩が戻ってきた。
ドアの前から動こうとしないことに疑問を持ったけど、表情が見られなくてすむからと私はそのまま言葉を紡いだ。
「最近では私は伊月先輩が告白を断るための、部活に集中するための都合のいい存在なのかなって思ってしまうんです。だから名前は公表しないのかなって。そんなこと考えてしまう自分が、大好きな先輩すら疑う自分が嫌で嫌で仕方がないんです。」
「……」
「リコ、せんぱっ……?!」
「オレも今、自分が心底憎いよ」
返事をしてくれないリコ先輩に振り返ろうとしたら、いきなり後ろから抱き締められた。
すぐに聞こえてきた声に、さっき入ってきた人物が誰だったのかようやく気付いた。
そうとは知らずに私は……。
「伊月、先輩……」
「ごめん、そのまま聞いて。オレ、今すごく情けない顔してる」
「……はい」
「言い訳がましく聞こえると思うけど、彼女がいるって言って未琴の名前を出さなかったのは、未琴を護るためなんだ」
「わた、しを?」
「うん。未琴が反感を買わないように。オレと未琴は学年が違うし、何かあってもすぐに助けてあげられないから……」
そっか、私が伊月先輩に告白した人たちに何かされるのを防ぐために……。
だから校内じゃちょっと素っ気なかったのかな。
でも、全部全部私のことを考えてのことで……。
「だけど、未琴のためと思ってもその未琴を悲しませてしまったのなら本末転倒だな……って、未琴?!泣いて……」
「ご、めんなさっ……わた、し」
「謝るのはオレのほうだよ。……未琴」
名前を呼ぶと同時に緩んだ腕に、振り返って返事をしようとしたら、目の前に伊月先輩の綺麗な顔。
突然のキスに驚いて涙の止まった私に、先輩はイタズラが成功した子供みたいに笑ってた。
「泣き止んで、もらえた?」
「……はいっ」
「ねえ、未琴……。これからも迷惑を沢山かけてしまうかもしれないし、傷付けることもあるかもしれない。でも、オレが未琴を笑顔にするから!……この手を離さないでいてくれますか?」
「っ!……はい」
ちょっとクサかったかな。なんて、今度は照れたように笑う伊月先輩に私は勢いよく抱き着いた。
(伊月くん何あれプロポーズ?)(聞いてるこっちが恥ずかしかったんだけど。つーか伊月爆発しろ)(はっ?!お前ら聞いて……)(でも未琴ちゃんを泣かせたわけだし……3倍、逝っとこっか)
→アトガキ