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―葉月のこと、よろしく頼むな。




それだけ告げて体育館へ向かう宮地さん。
途中から聞いてしまった二人の会話が本当なら、オレは期待してもいいのだろうか。

そう思いながらも、未だに顔を上げない葉月さんに不安が募る。




「ごめんね、和成くん」

「何がですか」

「……さっきの話、聞かなかったことにしてくれないかな」

「えっ?」

「だって迷惑でしょう?これから姉になる人にそんな感情を抱かれているなんて」




―だから、忘れて?




ああ、嫌な予感ほど本当によく当たる。
オレは綺麗な微笑を浮かべるこの人が、何を言っているのかすぐに理解出来なかった。
つーか、理解したくもない。

忘れることなんか出来るわけないっしょ。




「ほら、そろそろ午後の練習が始まるんじゃない?邪魔しちゃってごめんね?お弁当箱は返すのいつでもいいから。じゃあ私はこれで、」

「……んで、」

「和成、くん?」

「何でオレの話は聞いてくれねぇんだよ!」

「っ!」




次々と言葉を並べて帰ろうとする葉月さんに耐え兼ねて、オレは思わず声を荒げてしまった。
びくりと肩を揺らしてこっちを見る葉月さんに自己嫌悪。

だけど、このままじゃどこかへ行ってしまいそうで、オレは彼女の手首を掴みそのまま引き寄せた。
いとも簡単にオレのほうへ倒れこむ葉月さんの身体は、驚くほど華奢だった。




「……好き」

「っ……」

「オレは葉月さんのことがっ」

「和成くんっ!」

「何で、止めるんすか」

「だって、私たちは……」

「それは関係ない。オレはあんたが、葉月さんが好きだ」




俯いている葉月さんの表情は見ることが出来ない。
けれど抱き締めた肩が、オレから距離を置こうとする両手がかすかに震えている。

きっと声まで弱々しく震えさせて、聞きたくもない言葉を紡ぐんだろ。




「た、かお……くん」

「っ!」

「はな、して」

「嫌だ、って言ったら?」

「おねがい……」




何となく拒絶されることは予想してたけど、実際はマジでツラいわ。
苗字で呼ぶとか、そんなに嫌われた?

無意識に緩めた腕から抜け出して、オレに背を向けて走り出す葉月さんを今度は掴むことが出来なかった。
オレは虚しく伸ばした手を強く握り、仕方なく体育館に戻ることにした。







(お互いに同じ気持ちなはずなのに)(どうして)(上手くいかない)

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