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体育館で突然宮地に手を引かれたと思ったら、中庭のベンチに連れてこられた。
休日ということもあってか静かで、痛いくらいの沈黙が流れる。




「葉月、何かあったか」

「え?」

「まさか高尾に弁当渡しに来ただけじゃねーだろ?急に名前なんて呼んでるし」

「……それだけ、って言ったら?」

「はあ?……お前、嘘吐くなら自分の顔見てから言えよ。埋めるぞ」




沈黙を破った宮地は物騒な言葉を口にしながらも、聞いてやるから話してみろよ。と細められた瞳が語っている。
いつだって、私が悩んでいることに真っ先に気付いてくれるのは宮地だった。

その優しさに甘え、私はぽつりぽつりと昨日のことを話し始めた。




「わ、たし……高尾くんと、姉弟になるの」

「……この前言ってた再婚話か」

「うん。お母さんが選んだ人なら、誰だって祝福できると思ってた。でも、高尾さんは……あの人だけは」




俯きながら話す私の頭を軽く撫でると、普段の宮地からは考えられない程優しい手付きでそのまま抱き寄せられた。
規則正しい心音が私の心を落ち着かせる。




「焦って答えを出す必要はないんじゃねーの?」

「駄目だよ。答えなんて決まってる。……私には、お母さんの幸せを壊すことなんて出来ない」

「じゃあ高尾は?」

「諦めるしか、ないよ」

「はあ……。葉月の高尾への気持ちってそんなもんだったのか?」

「そんなことない!簡単に忘れられないから苦しいの」




もう引き返せない程に、この気持ちは大きくなってしまった。
それでも、お母さんも裏切れない。
私にはどちらかを選ぶなんて出来やしないの。

苦しさに耐え兼ねて宮地を見れば、思ったよりも近くにその綺麗な顔があった。
一瞬だけ脳裏を掠めた考えは、いけないと思いながらも私の口から零れてしまった。




「……ねえ、宮地」

「ん?どうした」

「忘れさせて」

「……」

「高尾くんのこと、宮地が忘れさせてよ」




優しい宮地に付け込んでこんなこと頼むなんて、ほんとサイテーな女。
だけど、このままじゃおかしくなってしまいそうなくらい辛いの。

宮地の瞳を見つめたまま、練習着の裾を握りしめる手が微かに震えた。
しばらくして、意を決したような宮地の手が頬を滑って顎をとらえる。
段々と近付いてくる整った顔に私はキツく目を閉じた。

宮地に好きな子がいたらどうしよう。なんて考えながら。




「いっ、たぁ……」

「ばーか」




キスされると思っていた私は、おでこに走った激痛に思わず目を開ける。
してやったりな宮地の顔がなんだかムカつく。




「好きでもないヤツにくれてやる程、葉月は安くねぇだろ?」

「でもっ!」

「オレが葉月の望み通りにすんのは簡単。だけどお前、絶対後悔するだろ」

「……」

「結局高尾のことは忘れられなくて、後ろめたさだけが残ってさ。ついでにオレなんかにも気を遣いそうだしな」




―オレはむしろ役得だけど?




なんて茶化して笑う宮地に、涙腺が緩む。




「それに、」

「なに?」

「高尾を想い続けんのも、忘れんのも辛いなら、自分に素直になったら?」




ああ、もうどうしてこの人は……。
私の気持ちを汲んで欲しい言葉をくれるんだろう。




「あり、がと……。宮地」

「ん。あとはお前らが正面からぶつかるだけだろ?」

「……え?」

「なあ、




高尾」

「気付いて、たんすか」




私の死角になるところから、眉を下げた高尾くんが姿を現す。
もしかして宮地は最初から……。




「あと10分くらいで昼休憩終わりだろ?」

「はい」

「じゃあオレは戻るかな。……葉月、高尾を信じろ」

「みや、じ?」

「お前の惚れた高尾を信じろよ」




最後の言葉は私にだけ聞こえるように耳元で囁かれた。
同じように高尾くんにも何かを言って、宮地は体育館へ戻った。

宮地には本当に感謝してる。

でもね、







(信じるも何も)(この想いは)(高尾くんには重荷でしかない)

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