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―葉月。お母さんね、再婚しようと思うの。




お母さんからこの言葉を聞いたとき、私は心からお祝いの言葉を述べた。
私のためにと働きづめだったお母さんが幸せを掴めるなら、娘として本当に嬉しい。

ただ、顔合わせと称して連れてこられた高級そうなレストランで、目の前に座る黒髪の男性を見た瞬間背筋が凍った。
優しく細められているものの吊り目がちな瞳や、周りに人が集まってきそうな雰囲気と笑顔。
上手く着こなされたスーツが学ランに見えてしまったなんて、自分に呆れた。




「すまないね。息子は少し遅れて来るんだ」

「大丈夫ですよ。バスケ部、でしたっけ?」

「ああ、そうだよ。試合が近いらしくてね」




そんな会話を耳にしたら、もう嫌な予感しかしない。
和やかな二人をぼんやり見つめていれば、見慣れた制服を着た男の子がこちらに近付いてきた。

ああ、やっぱりね。




「遅くなってスミマセン」




額にうっすらと汗を滲ませた彼は、予想と違わず私がよく知る人物だった。
とは言っても、話しかける勇気のない私は試合を観に行くことが精一杯で、きっと彼は私のことなど知らないと思うけれど。

私の顔を見た瞬間、わずかに目を見開いたのはどうしてだろうか。




「……こちらが娘の葉月さんだ。お前の二つ年上で、高校はお前と同じ秀徳高校だそうだ」

「朝倉葉月です。よろしくね、和成くん」




気付けば私の紹介がされていて、出来る限りの笑顔で彼の名を呼んだ。
本当は別の形で名前を呼びたかった……なんて、もう手遅れ。




「よろしくでっす。義姉ちゃん」




高尾くんのその言葉を聞いたとき、私は現実を突きつけられた気がした。
私は彼に名前を呼んでもらうことすら出来ないのだ、と。

それを理解した私の顔は、きっと酷く歪んでいたと思う。
だってそうでしょう?




私は、




私の恋は、







(伝えることすら赦されずに消えていくの)

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