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初めは何かの間違いかと思った。
質の悪い冗談であって欲しいとどれだけ願ったことか。

けれど、いくら現実逃避をしてみても父親の発言も、目の前に並ぶよく似た二人も消えてはくれなかった。




―和成。父さん再婚しようと思うんだ。




始まりは父さんのその一言だった。

早くに母さんを亡くして、男手一つでオレをここまで育ててくれた父さん。
感謝はしてもしきれないほどしているし、父さんの選んだ人ならたとえどんな人であろうと祝福する準備は出来ていた、はずだった。

でも、ダメなんだよ。
今紹介されたこの人は、この人だけは……。




「こちらが娘の葉月さんだ。お前の二つ年上で、高校は……」




知ってるよ。
高校はオレと同じ秀徳。
綺麗な黒髪をなびかせて、見知った金髪と並んで歩いている姿を見たことがある。
試合だって大体は応援に来てくれて、コートを見つめながら柔らかく微笑んでいた。

その瞳がオレを見ていないことも気付いてたけど。




「朝倉葉月です。よろしくね、和成くん」

「和成を知っていたのかい」

「はい。バスケ部では有名ですから」




彼女、葉月さんがオレの存在を知っていたこと、さり気なく名前を呼んでもらえたことは、顔が熱くなるのを感じるほど嬉しい。
ただし、こんな状況じゃなければ……なんて考えたオレはおかしくないはずだ。




「よろしくでっす。義姉ちゃん」




それでも適応性に富んだオレは、当たり障りのない笑顔を張り付けて気付けばそう答えていた。
瞬間、葉月さんの顔が淋しげに歪んで見えたのはどうしてだろうか。

その表情はオレがしたいくらいなのに……。
だってそうだろ?




オレは、




オレの恋は、







(告げることすら赦されなくなってしまった)

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