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□風邪の功名
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「薫のバカ!私はっ、ゲホッゲホッ課題……できるもん」

「はいはい。そんな赤い顔で何言ってるの?」

「だって……薫が、たいへんに、なっちゃケホッ」

「そんなの僕が未琴の分までやるよ。だから未琴は自分のことを考えて」

「いや!……薫まで、身体壊したらどうするのよバカ」




今休んだら、課題が山積みになるのが容易に想像できる。
今回は二人一組でやる課題だから、そのせいで薫が忙しくなることも……。
ただでさえお兄さんのためにと人一倍勉強してるのに、これ以上やったら倒れちゃうよ。

けれども、私の身体は言うことを聞いてくれなかった。
頭はガンガンするし、自力で起き上がることすら出来そうにない。




「はあ、いいから寝てなよ」




融通の利かない私に痺れを切らしたのか、薫は部屋から出ようとする。
頭では課題をやりに戻ってくれた方がいいってわかってる。
でも……風邪は人の心まで弱くするって言葉は本当みたいで、隣りに誰か、と言うより薫がいなきゃ淋しい。




「かお、る行かないで」

「お粥作りにに行くだけだからすぐ戻るよ」

「いらない」

「でも何か食べないと薬も飲めないよ?一人が嫌なら誰か呼んで、」

「薫がいい。……そばにいて?」

「はあ……。しょうがないな」




困った顔をしながらも薫が側に来てくれたのが、朦朧としてきた意識の中で見えた。
襲ってきた睡魔に逆らわず目を閉じれば、唇に何かが触れた。

反射的に開いた目が捕らえたのは薫のドアップ。
もう離れたはずの唇が熱を持って熱い。




「ちょっ、ばかおる」

「薬が飲めないんじゃ、誰かに移さないとね」

「だって……かおるに、移ったら」

「馬鹿は風邪を引かないから大丈夫だよ」




皮肉たっぷりの薫に返そうとした言葉は、もう一度重なった唇に飲み込まれた。







(ゲホッゲホッ……)(ほら、薫はバカじゃないんだから)(ねえ、未琴)(ん?)(ぎゅってして?)(えっ?)(しょーちゃんがね、よくしてくれたの)

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