short

□涙空
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「それでね、その時音也ったら、」

「……なあ。お前、いつまでここにいるつもりだよ」




もう10時過ぎてんだぞ。と付け足してみても、未琴はにへらと笑うだけで真意が掴めない。
大体こんな遅くまで男の部屋にいるのはおかしいだろ。
今日に限って那月は音也の部屋に行ってるし。
二人っきりとか、俺じゃなくてレンだったら確実に喰われてるぞ。
って、それは困るな。




「つーか、あいつに知られたらまずいんじゃね?」

「……別に」

「別にってお前、」

「別れたから」

「そうか。…………って、はっ?!」

「フラれたの。一方的に」

「……」




床を見つめながらくすりと笑う未琴に胸が締め付けられる。
俺はその姿にかける言葉も浮かばず、自分の無力さを痛感した。




「私、重いんだってさ。……でもしょうがないじゃん。だって、好きなんだもん」

「未琴……」

「なーんて。はい、この話は終わり!今日は朝まで付き合ってよ」




―どうせ明日は休みだし。




そう言って未琴はまた笑う。
どんな顔して笑ってるか気付いてんのか、こいつ。
てか俺の気持ちに気付けバカ。

なんてことを言う勇気なんて持ち合わせていない俺は、出来るだけ平静を装って未琴の頭をわしゃわしゃ撫でる。




「しょうがねぇから付き合ってやるよ。ただし、今度何か奢れよな!」

「うん。ありがとう、翔」

「お、おう……」

「翔の彼女になれる人はきっと幸せだね」




―私も、翔のこと好きになれば良かったかな。




苦笑い混じりに小さく小さく呟かれた声。

じゃあそんなに強がるなよ。
大声で泣いて、辛いって叫べばいいだろ。
そうしたら俺が、




俺が未琴を抱き締めるから……。

確かに未琴の泣き顔は見たくない。
だけど、無理に笑う未琴はもっと見たくないんだよ。






(じゃあ、俺にしろよ)(その一言が言えないから)

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