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□星屑エレジー
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11月に入って、練習時間と反比例するように日が落ちるのが早くなった。
私と翔はすっかり暗くなってしまった寮までの道を、手を繋ぎながら歩く。
肌寒くなるのは嫌だけれども、日没が早くなると闇に隠れてこんなことが出来るから嬉しかったりする。

他愛のない話をしていると、私は何となく見上げた空に手を伸ばしたくなった。
宝石のような星々の煌めきを見ていたら、それが無性に欲しくなったの。
決して手に入れることは出来ないものほど、人は掴むことを夢見る。

まあ私には、隣りにいる彼意外に欲しいものなんてないけれど。




「ねえ、翔。人は死んだらお星様になるって本当なのかな?」

「どうしたんだよ、突然」

「私はね、本当だと思うの」




噛み合わない会話に少しだけ眉を寄せた翔がこちらを向く。
そして、思案顔で私に尋ねた。




「なんでそう思うんだ?」

「だって星はこんなに近いのに……あんなにも遠い」




―まるで想っても触れられない死人のようでしょう。




私は重なっていない手を必死に上に伸ばすけど、握ってみてもその手は空を掴むだけ。
それに別段傷付くこともなく、腕を下ろすと私は自分に向けられていた視線と目を合わせた。
翔は先程よりも険しい顔で黙っている。

きっと私の言わんとすることが何となくわかっているんだと思う。




「でもね、たとえ触れられなくてもお星様が私を見守ってくれるならいいの」

「……」

「……だから、翔がいつか、」

「言うな!」

「っ!」




突然声を荒らげる翔に思わず身体が震える。
翔は繋いだ手を力強く引くとそのまま私を抱き締めた。

私同様、僅かに震える腕に罪悪感が募った。




「いつかなんて来ない!俺は……空から未琴を見守るだけなんてごめんだ」

「しょ、う」

「俺は死なない!生きて……生きて未琴を護るんだから」




きっとそれは翔が自分に言い聞かせた言葉。
死という恐怖に苛まれた彼の、精一杯の強がり。




「俺がいない世界でお前を泣かせるわけないだろ?未琴を笑顔に変えるのは俺様の役目だ」




―俺は未琴の王子様だからな!




けれどもそれは、確かな誓い。
私にとって何物にも勝る絶対の言葉。

心配しなくても彼にいつか、やもしが来ることはない。




「だからお前は…………って、んな顔すんな」

「……う、ん」




私の頭を撫でる温かい手を、ずっと信じていこうと思った。
そうすることしか出来ないけど、想いは力になるって私たちは知っているから。


だから、私はもう迷ったりしないよ。







(翔、大好き)(んなっ!そういうのは男の俺から……)(翔は私のこと、好き?)(いや、だからそれは、えっと……好き、だぜ)((可愛い……))

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