君影草
□03
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「ふぅ、後は仕上げだけね」
ガラッ
夕食の支度も一段落したところで玄関の戸が開く。
入ってきた白子に鈴蘭は手を止めて声を掛けた。
「白子、どうしたの?」
「そろそろ行って来るよ」
「そう……。よろしくお願いするわ」
「任せてよ」
「白子。……怪我はなさらないでね」
自分を不安げに見上げる鈴蘭の頭を撫でながら、善処する。と言葉を残して白子も神社を出た。
「結局、一番守られているのは私なのよね……」
溜め息と共に吐き出された鈴蘭の言葉は、厚い雲が広がる空に吸い込まれた。
女子である自分は、いつだって彼等の隣に並ぶ事が出来ない。
それが不甲斐なくて自分が嫌になる。
それでも、こんな私でも兄上達が必要としてくれるなら。と鈴蘭はいつも変わらぬ笑顔で彼らを出迎える。
「お帰りなさい。兄上、空丸、宙太郎」
「おーう!帰ったぞ」
「ただいまっス」
「……ただ、いま」
「夕餉の支度はほぼ出来ていますから……の前に、兄上と空丸は手当てが必要ですね」
「こんなのかすり傷だ!」
「なりません。きちんと消毒を。宙太郎、手を洗ってからご飯とお味噌汁をよそっておいてくれるかしら」
「はいっス。任せるっス!」
三人が戻り、空丸の様子がおかしくても鈴蘭は何も聞かない。
自分が聞いたところでどうしようもないし、それは彼自身の問題だと承知しているから。
手早く宙太郎に指示を出し、二人の怪我の手当てを行った。
大変な一日だったからか、夕食を終え、風呂に入ってから空丸と宙太郎が寝付くまでそう時間はかからなかった。
「兄上」
「おう、鈴蘭。あいつ等は?」
「もう寝ましたよ。余程疲れていたのですね」
「そうか、寝たか」
「兄上?」
鈴蘭の言葉を聞き、おもむろに立ち上がる天火。
手に握られた筆と、にやりと歪められた口元に鈴蘭は溜め息を吐いた。
「空丸に怒られますよ」
「大丈夫だって。それよりお前も寝ろ」
「いえ、私はまだ……。もう少し、いさせて下さい」
「……そうか。眠くなったら云えよ?」
「はい」
「とりあえず俺は行って来るわ!」
楽しそうな天火を見送り、鈴蘭は持ってきた本を開いた。