名探偵コナン
□溶けるようなその瞳に
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「コナンくーん」
小学校から帰ってきたメガネの少年を、視界に捉えた。
その傍らには、少年探偵団の皆がいたけれど。
彼は私を一瞥すると、何もなかったように阿笠博士の家に入ろうとする。
「ちょっと、彼女、呼んでるわよ」
哀ちゃんの呼びかけにわざとらしいくらいの大きいため息を付けば、視線だけをこちらに向けて嫌そうに口を開く。
「…あんだよ、なつめ……」
ポケットに手を突っ込見ながらのその姿。
私はというと、にこりと笑いながら彼のいるところへ近づく。
じっと見つめると、参りましたと言わんばかりにもう一度、ため息をつく。
「……ご一緒しても、いいかなあ?」
頭を抱えながら、口を閉ざしている。
「いいよいいよ、なつめおねえさんと遊んでるととーーーっても、楽しいもんっ!」
口を開いたのはかわいいかわいい歩美ちゃん。
許可を得てしまったので、私は彼女に手を惹かれて中に入る。
ふふん、と勝ち誇った様子で彼をみてやると、バツの悪そうな顔でこちらをキッと睨んだ。
「はやくしないと、おいてっちゃうよん」
いたずらな笑顔。
にししっと笑ってやれば、諦めたように彼もまた、博士の家に入っていった。
「オイ、ちょっと」
とても不機嫌そうな彼に、服の裾を掴まれる。
小学生とは思えないような力で引っ張られて、よくわからない部屋へと連れ込まれてしまった。
あたりを見回すと、そこにはファイルやら機械やら、難しそうなものがたくさん。
興味深そうに見ていると、彼は、私を壁に追いやる。
いわゆる、壁ドンとかいうやつだろうか。
「……えっと?」
あんまりにも顔が近かったため、すこし照れてしまうではないか。
目を泳がせながら彼を見れば、自分のその反応に驚いたのか、少しだけ頬を染め、目線を逸らす。
そんな反応をされてしまうとまたこちらも恥ずかしくなってしまい、どちらともなく、口を開く。
「「あのさ、」」
彼は、固まってしまう。
とても、気まずそうな顔。
「なあに、新一くん」
「…ここでその名前を呼ぶのはやめろ」
「はあい」
どうしていいかわからなくて、再び沈黙がおとづれた。
「今日は、何しに?」
「昨日の返事を聞きに、会いに来た」
実はというと、私は昨日、彼に告白していた。
もちろん、彼の中に意中の女性がいることなんて、わかっちゃいる。
だけれど、いつか彼がいなくなってしまうんじゃないか、そう思うと、思いを伝えないということがどうしてもできなくて、
困らせてしまうだなんてことは分かりながらも、好きだ、と伝えて走って逃げた。
「……悪いんだけど、ボクさ…」
分かり切った答えなのに、胸が、ちくりと痛む。
「いいのいいの、わかってたから。気にしないで、?」
わかっていたとしても、結果は残酷で、彼の答えを最後まで聞くこともなく、一粒涙をこぼす。
泣くわけにはいかない。
そんな事理解しているのにそれは止まってくれなくて、二重になる視界で、彼はどんな顔をしているかさえもわからなくて、ただただ胸が苦しかった。
「……なつめ、だから、そうじゃなくて」
「もういいって、ごめんね、泣いちゃって、ほら、先に戻ってよ、」
必死に手で顔を覆う。
そんな手に彼の手が触れた。
掴まれ、力強く引き剥がされると、彼と、バッチり目があった。
「バーロー、泣いてんじゃねぇよ…」
彼もすこし、苦しそうな表情をしている。
「…ないて、ないし」
「自分で泣いてごめんっていってたじゃねぇか」
「いってないし」
「…はー…。悪かったな、泣かせちまって」
謝罪なんていらない。
溢れる涙は止まらなくて、少し緩んだ手をもう一度かざそうとした時、彼は、目を瞑った。
私は、この先を、知っている。
理解ができなくて退こうとするも、後ろには壁。
慌てていれば、彼は耳元で囁いた。
「逃げんなよ、」
「ひ、」
ぞくぞくっとした感覚とともに、唇に柔らかいものが触れる。
わけがわからなくて、固まっていたら、べろ、と唇を舐められる。
思わず身じろいで声をだすと、その空いた口に舌が差し込んできて、私の舌に触れる。
そして、ぐ、と強く舐められ、絡め取られ、くちゅくちゅとした音が部屋に響き渡る。
「ん、ちょ、っと、、、」
ぴくりと手を動かすと、手のひらはいつの間にか恋人つなぎにされていて、強く握られた。
そして終わることなく口内で動き回る舌に、頭がクラクラとしてくる。
どちらのものかわからない雫が一粒垂れると、ようやくそれから解放された。
「…マセガキが…不健全だよ」
顔が見れなくて、うつむきながらそう言う。
「不健全も何も、合意があれば年なんて関係ないね、それに俺、高校生だし」
「合意なんて、してないんだけど…」
「お前、俺のこと好きって云ったじゃん」
「…私は、ね、コナンくんは云ってない」
「言わせなかったのはおめーだろ?俺は言おうとしたのに」
「……は?」
思わず顔を見上げると、そこには見たこともないくらいに真っ赤なコナン君がいた。
「悪いんだけど、ボクさ、まだ子供だしこれから危険な目にあわせちゃうかもしれないんだ。だからね、元の姿に戻るまで、待ってて欲しいんだ。必ず、なつめを幸せにするから」
真剣で、かつ照れながら。
私に打ち明ける彼の言葉は、とても嘘には聞こえなくて。
「……勘違いしてるようだけど、蘭のことはただの幼なじみでしかみてねぇぞ」
ぽりぽりと頬を書きながらこちらを見つめる彼。
私は嬉しくて、小さな彼をぎゅっと抱きしめた。
「わ、ちょ、あにすんんだよ!」
「なにそれ、プロポーズみたい!」
へへへっと笑うと、彼もまた面白そうにわないながら、小さな体で私を抱きしめる。
「そうだよ、悪いかよ。」
こちらを真剣な表情で見つめる。
溶けるようなその瞳に、私はどんどん吸い込まれていく。
「…仕方がないから、待っててあげる」
「生意気な、」
口角を上げて見せれば、彼はまた、私の唇にキスを落とした。
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