名探偵コナン

□翻弄
1ページ/2ページ




ふぅ、とため息をひとつ。
けれど、私の中に溜め込まれていた不安や苦しさは逃れて行ってくれるでもなく、ただ心の中心で蠢いている。
繰り返す毎日の中で、色々な事が嫌になる。
そんなことを、誰しも一度は経験した事があるのではないだろうか。

仕事が終わり、何時もの帰宅路をとぼとぼと歩く。
そういえば、今日は大好きな漫画の販売日だったっけ?
買いに行こうかと思うけど、なぜか足取りは重くて、思うように進めない。

この気だるさの正体はなんなのだろう。
でも、最新刊には大好きな安室さんが大活躍してた筈。
けれど、本屋への道は逆方向。
今更戻るのも面倒臭い。

あぁ、もういいや。
一度向いた本屋への方向から踵を返し、家へと帰ろうと思った瞬間、目の前には、見知らぬ男性の顔があった。


「ぇえ、と…?」


あまりの距離の近さに一瞬たじろいでしまう。
でも、よく考えたらいきなり後ろを向いた私が悪いんじゃないか。
一歩後ろへ下り距離を取ってから、口を開く。


「す、すみません、よく見てなくて…っ!」


軽く頭を下げ、相手の視線を一別すればよく見ると私のことを見ていない。
かといって何処かを見ているわけでもなく、ぼーっとしていて虚ろな目をしていた。
あれ、なんだろう、そう思った瞬間、私の肩に痛みが走った。

目の前の彼が、思い切り私の肩を掴んだのだ。


「ぎゃ、え、ちょ、、っと、あの、」


いきなりのことで何が何だか解らず、自分の挙動もおかしくなる。
虚ろだった瞳に光はなく、次に私の目をまっすぐに捉えた。

え、なにこれ、絶対おかしい。


「どうも、こんばんは。」


こ、こんばんは…?
と一応返事を返そうと思った瞬間の事。
最後まで言い切れずに、お腹の中心に、今まで感じた事のない痛みが走った。
痛い、というよりも、熱い、の方が正確なんじゃないか。

なんて考えを浮かべながら、私の意識は薄くなる。



ああ、なぜ、こんなことに。

さっさと家に帰るなり、本屋に行くなりすればよかった。

思った甲斐虚しく、私は、そのまま道へと倒れていった。










.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ