二次小説部屋

□遠い雷鳴の中2(近畿)
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 僕がその駅に降り立った時は真昼だったのだが、初夏の風が頬を撫でた。東京よりもずっと涼しく心地よい。遠くにアプルス連峰の頂きが青々と輝いて、圧倒されるような美しさだった。初めて来たのに何故か懐かしさを感じる風景。僕が生まれた海沿いの町とは似ても似つかないのに。その思いはここに君が住んでいると聴かされたからだろうか。有名リゾート地とも離れているせいか観光のシーズンだと云うのに静かだった。
「タクシーは・・・呼ばないと来ないのかな」
 呟きながら看板の電話番号を押す。僕が行き先を告げるとすぐに迎えに来ると云う。ぼんやりと景色を楽しみながら待っていると、すぐ後ろでドアの開く音がした。振り返ると出てきた青年が、事務所に鍵をかけながら看板の前に立っている僕に駅前道路の端に停まっている車を指差す。
「お客さん? あそこ」
「あ、そうですか・・・」
 どうやら電話をかける距離でもなかったらしい。駅舎の中に事務所があったらしかった。そうそう利用する人もいないのだろう。頭を掻きながら僕は杖を操って車に向った。
「ちょっと待って、回してくるよ」
 運転手はそう年が違わない青年だったが、僕の姿を見ると慌てて車を取りに走っていく。そんなに気を遣ってもらわなくても大丈夫なのだが、その好意に甘えることにして彼が目の前に車を持ってきてくれるのを待った。
「お待たせしました、どうぞ」
「すみません、あの、ケアリゾート泉の里へお願いします」
「はいわかりました」
 駅前こそ何軒かの建物があったが、少し走ると殆ど何もなくなった。緑の中をすれ違う車もなく走って行く。
「お見舞いですか?」
「え?」
「泉の里行かれるんですよね、入院されてるんじゃないんですか?」
「入院? あの、泉の里ってリゾート施設

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