二次小説部屋

□言葉よりも(近畿)
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 胸を打たれた、とはまさにこんなことなのかもしれない。別に感動したとかそう云うことではないのだけれど、その潤んだ瞳にじっと見つめれらた瞬間、岡田は自分が今どこに居て何をしている最中なのか忘れてしまった。コンサートのMCにゲストで出て、マイクを持ってアリーナの真ん中に立っていたのだけれど、まるで三人だけで楽屋で話しているような気分になってしまったのだ。
「何か怒ってるん、光一くん?」
 途方に暮れたように思わず呟いてしまった岡田を見ると光一は、一瞬の表情を消してもう微笑んでいたけれど、笑顔の中で自分を見る瞳が冷えたのを岡田は見逃さなかった。他のことはどうでもいいからメンバーには鈍いと思われているだろうが、これだけはわかる。
 だって光一は・・・。
 歓声に送られてステージを背にしながら、気のせいであるように岡田は祈った。こんなたわいもない冗談さえ笑って流せないほど、光一にとって剛が重要であるなんて思いたくないから。
 折角とってくれた席にも行く気になれなくて楽屋で二人の帰りを待っていると、自分たちとはまったく違う雰囲気が余計に気を重くさせる。二人しかいないのだから一緒なのは仕方ないとしても、ドライヤーもスプレーも当たり前のように一つしかないのは何故だろうか。親密なのはいい。誰も剛から光一を奪おうなんて思ってはいないのだ。だけど、ちょっと話すとか笑いかけてもらうとか、そのくらいのことは許してくれてもいいじゃないかと岡田は思うのだが。
「剛くんのケチンボ・・」
 光一、と書かれたバスローブを手に取ると顔をうずめてみた。手触りのいい、柔らかいタオル地の感触が頬に心地良かったが、何よりも甘い香りが痛む胸を疼かせる。光一の肌の残り香が。こんなことをしている所を見られたら意地悪どころではすまないかもしれない。
 鞄につめて持って帰りたかったが、コンサートが終わったらしい。部屋の外がざわつき出したので岡田は慌ててそれを元のようにソファの背にかける。そのままパイプ椅子に腰を下ろした所で二人が楽屋に入ってきた。岡田は立ち上がる。
「おつかれさんっす」
 笑顔で戻ってきた光一だったが、岡田の姿を見た途端に真顔になった。挨拶を無視するように顔を背けるとスタッフから渡されたスポーツドリンクに口をつける。
「光一くん・・」
 続けて入ってきた剛がその様子を面白そうに見やった。
「なんや、おったんや。岡田一緒にメシ食いにいくか?」
 自分で火種を蒔いておきながら呑気な口調で云った剛を、光一は振り返る。
「え・・、いいんすか?」
 光一と食事などめったにできないから、遠慮がちだが嬉しそうな声になった岡田を遮って光一は呟いた。
「俺は行かへん」
「何でや、岡田となんてめったに会わへんのやろ、おまえ。一緒に行こうや」
 光一は拗ねたように潤んだ瞳で剛を見ると、バスローブを掴んで踵を返す。
「二人で行ったらええやん・・! 俺はどうせ遊びやったんやろ。岡田といちゃいちゃしてきたらええねん」
「阿呆、あんなん冗談やのに・・」
 笑いをこらえきれないように呟いた剛の言葉は、乱暴に閉められたバスルームのドアに遮られて光一には届かなかったようだった。剛は笑いを含んだ目で岡田を振り返る。
「なあ?」
「・・剛くん、俺で遊ばんとって下さいよ・・」
 あの様子では当分光一は岡田に笑いかけてはくれないだろう。電話や食事はおろか、廊下ですれ違っても無視されるに違いない。案外子供っぽいところのある人だから。そんなところも可愛いとは思っているけれど。
「遊び・・? 阿呆、ちゃうわ」
 岡田の言葉に剛はふと笑みを浮かべた。
「近寄りすぎや、云うてんねん。わかれへんのか・・?」
 その決して笑っていない目の光に岡田は立ちすくむ。どんなに仲が良くても剛と自分は対等ではないことを、忘れてはいないけれど。剛は興味を失ったように岡田から目を逸らすと衣裳のズボンを脱いだ。
「ま、姫の機嫌悪いからメシはまた今度な」
「・・う、うん」
 言外に出て行けと云われているのだとわからない岡田ではない。でもそれでも負け惜しみを云うことは忘れなかった。
「剛くんは意地悪やぁ」
 振り返って剛は邪気のない顔で笑うとバスルームの扉に手をかけた。
「光一に近寄らんかったら、おれはめっちゃ優しいで。ほなな」
 かってに入って来られた光一が中で何かを叫んでいたけれど、岡田は傷心の胸を抱えながら楽屋を出た。叶わない恋だと云うことはとっくにわかっているのだ。





なんのことやら、と云う方のために〜。これは99年の夏コンin福岡で
剛がゲストでMCに出てきた岡田と結婚すると云って、光一さんが俺はどうなるねんと
訊いたら「おまえとはアソビやった」と答えてこうちゃんを絶句させたという
エピソードから思いついて書きました。通販のペーパーに載せたので本になってないの。
でも岡田は本当に光一さんが好きなんですよねえ・・。冗談にならない(^^;)。

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