エジプト編

□oratoJ―edosipE
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「あら、春茉ちゃんいらっしゃい!」
「こんにちは、お邪魔します。」
「今日も上手に抜け出せたみたいね。」

悪戯っぽく笑うホリィに、罰が悪そうに頬を掻いた春茉。
今日も図書館で勉強すると言い張って外に出てきたらしい彼女に、ホリィは気にする事無いわよ、と春茉を居間に招き入れながら言う。

「たまには外に出なくっちゃ、春茉ちゃんが座敷わらしになっちゃうわ。」
「幸せを運ぶ座敷わらし、です?
私は座敷わらしみたいに小さくないですよ!!」

むっ、と頬を膨らませる春茉の頬を指でつついたホリィは、用意しておいた毛糸玉と棒針を居間に持ってきた。
帽子にチャレンジしてみる?と訊ねながら、パラパラとレシピブックを捲っていたホリィは、ふと声を上げる。
それに釣られて春茉も廊下の方へ目を向けると、そこには承太郎がぬしぬしと歩いている所だった。

「承太郎!春茉ちゃんが来てくれてるわよ!」
「……知ってるよ。小さい靴があったから。」

駆け寄るホリィに、わずかに顔をしかめながらも、されるがままになっている承太郎。
しかし、仲が良いんですね、とその様子を見ていた春茉と目があったとたん、承太郎は急いで背を向けた。
突然の事に、内心ショックを受けていた春茉に、彼は帽子を深く被りながら言う。

「……あんまり俺を見るんじゃあねーぜ。」
「え……?」
「分かったらさっさと編み物にでも何にでも集中しろッ!!」
「は、はいッ!!」

飛び上がった春茉に、承太郎がハッとしたように口を押さえた。
もちろん、言われるがままに本に目を落としている春茉は気付かない。
プルプルと震える彼女に、ホリィが怖がらなくても大丈夫よ、と安心させるようにその背中を撫でる。

「承太郎、照れてるだけだから。
そうだ!マフラーなんてどう?承太郎にとか……。」
「いらない。作ったもんを着けたりしたら、誰が作ったんだって騒ぎになるのも面倒だぜ。」
「えー、堂々と春茉ちゃんに貰ったって言えば良いじゃない。」

なかなか編み物上手よ?と生徒の腕を褒めるホリィに、褒められた春茉は照れ臭そうにはにかんだ。
そんなホリィの様子に、忘れたのか、と肩をすくめる承太郎。

「春茉の婆さんは耳が早い。
うっかり本当に騒ぎにでもなってみろ。
春茉は本気で学校と家の往復しかさせてもらえねーぜ。」
「……まぁ、春茉ちゃんを心配して……!」
「してねぇ。」
「もう!承太郎ったら照れちゃって!」
「……フフ、ありがとうございます。」

賑やかに言い合っている承太郎とホリィに、その様子を見ていた春茉が、クスクスと笑いだした。
笑う要素があったか?と怪訝な顔をする二人に、春茉は嬉しそうに笑顔を浮かべる。

「私も、承太郎くんと学校に行けなくなるのは嫌ですから。
……大通りまでですけど。」
「……まぁ!フフ、良かったわね、承太郎?」
「……ちっ。
婆さんが感付く前に帰れよ。」

そう言い残し、さっさと自分の部屋に戻っていく承太郎。
その後ろ姿を見ながら、小さな編みぐるみなら怒られないんじゃないかとホリィに提案した春茉は、早速製作に取り掛かった。
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