エジプト編
□Episode52
2ページ/3ページ
「アヴドゥル、起きたよ春茉が。」
「そうか。良かった……。」
「モハメドさん!?その首は……!!」
リ・アさんが開けたカーテンの向こうには、モハメドさんがベッドに横になっていました。
首には、包帯がしっかりと巻かれています。
驚いた私に、大事無い、と笑うモハメドさんの声に被せて、典明くんの声が聞こえてきました。
「……春茉?もう大丈夫なのかい?」
「……典明くん!?」
「こっち、花京院典明は。」
もう一つカーテンを開けると、ベッドに腰掛ける典明くん。
その目にも、包帯が幾重にも巻かれています。
「典明くん!典明くんこそ大丈夫なんですか!?」
慌てて駆け寄ると、典明くんは私の声を頼りに、何とか私を探り当て、口許に小さく笑みを浮かべたのです。
「僕も問題無いよ。
リ・アさんのお陰で、明日には包帯も取れるそうだ。」
「君がスタンドをうまく扱えていたら、私の出番無かった。」
リ・アさんの言葉に、私は砂漠での出来事を思い出そうと、必死に記憶のページを捲りました。
ですが、いくら捲っても、血塗れの典明くんを見てから、さっき目覚めるまでの記憶がすっぽり抜け落ちているのです。
「……思い、出せない……?」
「……春茉、君はスタンドを暴走させてしまったんだ。」
「……暴走した……?Pandoraさんが!?」
驚いた私に、その場面を目撃したモハメドさんとリ・アさんが、その惨状を教えてくれました。
血塗れの典明くんを抱えて、リ・アさんがいるヘリコプターまで走ろうとしていたジャンさんを妨害するように、砂漠の砂を吸収し続けていた事。
そして、聞いたことの無いような鳴き声を上げ続けていた、とも。
「……もう少し遅かったら、下手したら失明してた。」
「……嘘、ですよね……?」
「残念だが、事実だ。」
リ・アさんは、最悪の可能性を示唆され、期待を込めてモハメドさんを見れば、彼も肯定するように頷いたのです。
「……春茉、結果として、僕は何ら問題無くここにいて、明日には目も元通りだ。
そう気に病む事は無い。」
典明くんはそう言ってくれますが、先の戦闘で、私が足を引っ張ったのは、変えようの無い事実なのです。
「……冬泉春茉、悪いこと言わない。
……日本に帰ろう?私と一緒に。」
リ・アさんの言葉に、私は目を見開きました。
「……それは、戦力外通告ですか?」
自分の声が震えているのがよく分かります。
典明くんが、私の手を握ってくれていますが、それで震えは収まってはくれません。
「アヴドゥルと話したの。
……何でも吸収する危険なスタンド、仲間なら心強いけど、制御出来ないなら話は別。」
「……我々は、何かあってからでは遅いんだ。
ホリィさんを救うだけじゃあない。
DIOを止めなければ、ホリィさんのような人が増えかねない。」
危険なスタンド。
それが、私のPandora Owlを指しているのは明白です。
「……っ、だが、春茉のお陰で、危機を脱した事もある!!
アヴドゥル!君の怪我を治したのも春茉だぞッ!?」
典明くんがそう言ってくれていますが、モハメドさんも、リ・アさんも、険しい表情のまま。
な、何か言わなければ……!!
私は、そっと息を吐いて、お二人を見据えました。
「……ここまで来て、帰るなんて出来ません。」
「それは義務?
誰もそんな義務課してないよ。」
意を決して言った言葉は、リ・アさんにあっさりと切り捨てられてしまいました。
義務感から旅を続けるなら、もう旅を続ける必要は無いと言われ、私は何も言い返せません。
「……JOJOには、私から言っておくから。」
「待ってください!!
リ・アさん!……モハメドさん!!」
私の言葉に、一瞬だけ振り返ったものの、リ・アさんはそのまま部屋を出て行ってしまいました。
閉め切られた扉は、まるで私の旅路をも塞いでいるようで、私はその場に座り込むしか出来ませんでした。