片翼の影

□十八ツ影
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「それにしても!あのキュモールっての、ホントにどうしようもないヤツね」

全員が休む大部屋。
ベッドの1つに腰を下ろしていたリタが、嫌悪感を隠さずにそう呟いたのを皮切りに、次々とキュモールに対する不満が噴き出した。
ヘリオードで好き勝手した結果、フレン達に止められた。いくら貴族出身のキュモールであろうと、罰は逃れられなかったはず。
だと言うのに、再びこの地でまた、同じ事を繰り返しているのだ。
口にするのは皆、リタの言葉と似たようなものだった。

「……にしてもあいつら、フェローを捕まえてどうすんのかねぇ?」
「分かりません……。
ですが、このままだと大人はみんな残らず砂漠行きです」
「大人がいなくなれば、次は子供の番かも知れないわね」
「そんなの絶対駄目です!
私が、皇族の者として話をしたら……!」
「でもエステリーゼ様。
キュモールには何度も言い返されてるじゃないですか」
「そ、それは……」

弥槻の指摘に反論できず、エステリーゼは押し黙る。
カルボクラムでは、皇族であるエステリーゼをぞんざいに扱い。ヘリオードでは、警告を受けたのにも関わらずキュモールは彼女に従おうとはしなかった。
恐らくキュモールには、エステリーゼの言葉は届かない。

「……ねぇエステル。
とりあえず、自分の事か人の事、どっかにしたら?」
「リタ……」

リタの言葉に、ジュディスも賛同するように頷く。

「知りたいんでしょ?始祖の隷長の思惑を。
だったら、今はキュモールの事は考えないようにしてはどう?」
「あんたと意見が合うとはね。
あたしも、ベリウスに会うのを優先した方がいいと思う。キュモールを捕まえても、あたしらには裁く権利も無い。
どうしようも無いなら、出来る事からするべきだわ」

リタとジュディスの2人から指摘を受け、エステリーゼは俯いた。
反論を探しているのか、目が泳いでいる。

「私達は何でもはできる訳じゃありません。私だって助けたいとは思っています……、でも……」
「うむ。二つの事をいっぺんにしようったって出来ないのじゃ」

弥槻にも、その上パティにも言われてしまえば、反論を探していたらしいエステリーゼは力無く肩を落とす。

「ごめん、エステル……。
みんな、責めてる訳じゃないの。あたしだってムカつくわ。今頃、詰め所のベッドであいつが大いびきかいてるのを想像したら。でもね……、」
「リタ、分かってます……」

リタのフォローに小さく頷いたエステリーゼは、彼女も分かっていると微笑んだ。
確かに、キュモールの行いは酷すぎる。
だが、皇族のエステリーゼでさえ止められぬキュモールを止めるには、法的拘束力を持つ騎士団が動くのを待つしかない。

「例え捕まっても、釈放されたらまた同じことを繰り返すわよ。ああいう人は」
「だろうねぇ。良く言うじゃない。バカは死ななきゃ治らないってさ」
「後は騎士団を……、あの人も騎士ですね。ちゃんとした騎士が来てくれるのを待つしかありません」

弥槻の言葉に、そうだな、と頷いたユーリは、それ以上何も言わずにさっさと自分の布団にくるまった。
興味が無い風を装ってはいるが、彼の空気は何処か刺々しい。

「そう言うことよ。
明日はカドスの喉笛を越えるんだから、早く寝ましょう?」

ジュディスに促され、皆は次々とベッドに横たわった。
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