星喰み編

□第七十九羽
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「見た目は人間のナリをしちゃいるが、相手はアウトブレーカーだ!何度も戦ってきたんだ、戦い方は分かってるな!」
「ワンッ!!」

ユーリの激励に、ラピードが威勢よく応えた。
そもそも、薄暗い洞窟の中。戦いに集中していれば影なんて気にしている余裕は無い。
しかしそれは、戦うことが好きなユーリ達やヒトではないラピードに限った話。

「わっ……!わわっ……!!」

ハンマーを振り上げようとして構えたカロルは、悲鳴を上げて後ずさった。ジュディスが咄嗟に彼の前に躍り出たお陰で攻撃を受けることは無かったが、カロルにとっても苦手な相手であるらしい。

「数が多いから、ちびっ子達は回復に専念してちょーだい!」
「うぅっ……、情けないや……」
「わ、分かりました……!」
「な、慣れればどうってことないから……!もう少し待って……」
「待てない。こっちでちゃちゃっと倒すから、リタっちはエアルクレーネまでの道筋、恐怖で忘れたなんて言わないで……、あっつっ!?」
「怖くなんてない!!」
「それだけ元気なら大丈夫ね」

道を忘れるなと半ば本気で言ったレイヴンに、リタのファイアーボールが飛んできた。背中に注意を払っていなかったレイヴンは、髪を焦がされてしゃがみこむ。
そのお陰で、アウトブレーカーの首から飛び出してきた球体が直撃する自体は免れた。隙だらけになった腹を下から射抜いてやれば、アウトブレーカーは声にならない悲鳴を上げて消えていく。

「はぁ〜、やだやだ。弥槻がこんなブヨブヨの体になっちゃうなんて……」

回復に気を回さなくていい分、攻撃に専念できるユーリ達は、最後のアウトブレーカーが消え去ったのを確認してホッと息を吐いた。
消える直前まで、指でアウトブレーカーをつついていたパティも、レイヴンのぼやきに同意するように頷く。

「クラゲのようなフワフワ感も無いからの……」
「美味しくなさそうなゼリーって感じだ」
「ユーリ、まさかとは思うけど食べるの……?
元は人だったんだよ……?」
「見た目の話だよ。さすがに食べねぇって」

青ざめた顔のカロルに、そんなに食い意地が張っているように見えるのかとユーリが肩を落とす傍らで、敵がいなくなったことで元気を取り戻したリタがラピードと共に再び洞窟の奥へと走っていく。

「リタ!あんまり先に行くと、さっきのような敵が出ますよ!!」
「も、もう大丈夫よ!!あれは幻覚!さっきはちょっとびっくり……、した訳でもないから!!」
「僕は幻覚だとしてもまだ怖いなぁ……。体の中に頭が出たり入ったり……」

口らしき所から出し入れする球体は元々頭だったのか、属性を変える度に人の頭が飛び出してくる。
首の上に乗っているはずの頭が、自由に出入りするのだ。その光景を思い出したのか、カロルは自分の首に触れる。
確かに、人の頭が首から出たり入ったりするなんて、手品だと理解できなければゾッとする光景だろう。想像したレイヴンは一人、ぶるりと体を震わせた。
同じくらいの身長のパティは平気そうな顔をしていることに、カロルは怪訝そうな顔をしている。

「……パティは平気なの……?」
「うちはそもそも、一度人から魔物に変わっていくサマを見たことがあるからの。それに……」
「それに?」
「薄情と思われるかもしれんが、知らない人達より弥槻姐を助けることが最優先だから……」
「そっか……。知らない人……」
「それに、あの影自体が幻覚よ」
「エアルが見せる幻覚……。それなら、ウンディーネ達に頼めば少しは楽になるかもしれません!」

エステルが妙案を思い付いたとばかりに、ウンディーネとイフリートに呼び掛ける。彼女の声に応じて姿を見せた精霊達は、万事聞いていたとばかりに頷いた。

「戦闘範囲くらいならば、幻覚に惑わされないようカバーできるでしょう」
「さすがに洞窟全体に効果は及ばねぇか……。戦闘に支障が無くなれば、さらに進むスピードは上がるから、それで良しとするか」
「従える精霊の属性が増えれば、効果を拡げることもできるだろうがな」
「いんや。時間が無い中、他の精霊集めに行ってたら弥槻が間に合わなくなっちまう」

それじゃ本末転倒だ。レイヴンが肩をすくめる。
アウトブレーカーに仲間入りした弥槻とご対面なんて、考えたくもない。

「急ぎましょう!今度は私が弥槻を助けるんですっ!!」

エステルの力強い言葉に頷いて、ユーリ達は先を行くリタとラピードを追い掛けて走り出した。


*
*


「この先にエアル溜まりがあったはずよ!」
「おっさん、大丈夫か?」
「ひぃ、ひぃ……!って思ったけどそんなに苦しくは無いのよね。精霊のお陰かしら?」

相変わらず町並みの幻覚は消えないが、エアル酔いはそこまで激しくはない。
精霊達が幻覚を抑えると共に、この濃度が高いエアルからも守ってくれているのだろう。気のせいか、魔物達も襲ってくる数が減ってきた。

「むむぅ……!しかし、幻影が邪魔で肝心の弥槻姐の姿が全く見えんのじゃ……!」
「ラピード!そろそろ匂いで追跡できないか?」
「…………。ワン」
「弥槻を攫ったくらいだし、アウトブレーカーがたくさんいる場所の近くだったりして!なーんて……、アハハ……」

カロルの虚しい笑いが響く。

「……襲って来ないということは、守りを固めてるって訳ね?」
「えっ!?い、いやそういう訳じゃ……」
「間違いとも言い切れないわよ。ほら、あそこ」

カロルの空元気をよそに、ジュディスが真剣な顔になった。それはリタも同じことで、二人は一点を見つめている。

「まるでイワシが群れることで体を大きくしているようじゃ」
「ガルルルル……」
「カロル、どうやら当たりだぜ」

ラピードが唸り声を上げた。
冗談のつもりが本当になってしまったカロルも、青ざめた顔のままアウトブレーカーの群れを見る。

「仮にブラフだったとしても、アレをどうにかしないことには先に進めなさそうよ」
「突破しましょう!」

駆け出そうとした時、突然アウトブレーカーの群れが割れた。
まるで誰かが通る為の道を作ったかのようだ。あるいはユーリ達を招き入れようとしているのか。

「ははっ。どうやら観念したらしいぜ」

軽口を叩くユーリだが、声がわずかに震えていた。それでも、先陣を切ってアウトブレーカーが作った道を歩き始めた。
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