星喰み編

□第七十八羽
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「でも、ここってエアルクレーネが涸れてるんでしょ?」
「そういや前フェローも言ってたな。
弥槻もいないし、どうやってやるんだ?」

術式を組み立て始めたリタを見ながら、ふと思い出した様にカロルが呟いた。最初にこの場所を訪れた時、確かにフェローがそう言っていた。
その上、ゾフェル氷刃海の時とは違い、エアルの流れを調整していた弥槻もいない。できるのか、と顔を見合わせたユーリ達に、エステルは胸に手を当ててわずかに目を閉じた。

「……エアルの流れの跡を辿れば、深みから引き寄せる事ができると思います」
「そんなことが出来るのか?」
「はい……。ウンディーネが、教えてくれるんです」

精霊はそんな事もできるのか。
皆驚きながらも、リタの指示に従ってフェローの聖核を囲む。
ゾフェル氷刃海の時とは違い、エステルをサポートするのはウンディーネだ。

(頼むぜ……!弥槻の為にも……)

祈る様に目を閉じていたレイヴンは、ふと熱さを増した温度に思わず目を開く。
目の前には、炎が揺らめいている。あまりの熱に顔をしかめたレイヴンに、炎が応える様に大きく膨らんだ。

(小さき友が、今度こそこの世界で生きられる様、尽力しよう)
「は……?……フェロー……?」
「やった……!成功よ!!」
「うわうわうわ、火だ!火が!!」

聞こえた声に瞬きすると、目の前にあったはずの炎はもう何処にも無い。
代わりに、聖核があった場所には、炎をまとった偉丈夫がいた。

「おぉ……。無尽蔵の活力を感じる」

精霊化は成功した。炎の化身とも言えるその精霊は、近くにいるだけで彼の発する熱に焼かれてしまいそうだ。
慌てた距離を取ったユーリ達に代わる様に、笑顔のウンディーネが姿を見せた。

「お久しゅう、盟主殿。
転生、お祝い申し上げます」
「その気配は……、ベリウスか?そうか、そなたも……」
「水を統べるようになった今は、ウンディーネと呼ばれております」
「在り様を変えし今、我もまた新たな名を求めねばな。
我を転生せしめたそなた、我を名付けよ」
「はいはい!!めらめら火の玉キン……」

フェローとは違う新たな名を求める精霊に、カロルが元気よく手を挙げた。しかし、全て言い終わる前に、無情にも振り下ろされたリタの拳に倒れ込む。

「エステルの力で精霊になったんだから、エステルが名付けるの!」
「だからってぇ〜……!」
「では……、力強く猛々しい炎…。灼熱の君、イフリート」

イフリート。新たな名を復唱した彼は、満足そうに頷くと、どこか嬉しそうに己の身体を眺めている。かと思うと、上機嫌に空へと昇っていく。

「世界と強く結びついた今、全てが新しく視える。この死に絶えた荒野でさえ力に満ち溢れている!
ははははは!これは愉快だ!!」
「ちょ、飛んで行っちゃったよ!?」
「おーい、どこへ行くのじゃ!」

フェローの時とは違い、快活に笑ったイフリートは、上機嫌のままはるか上空まで飛んでいってしまった。
カロルとパティが空を見上げて呼び戻そうとしたが、小さくなってしまった彼まで届かない。

「案ずるな。我らはそなたと結び付いておる。どこであろうと共に在るのじゃ。
始祖の隷長と満月の子とが精霊を生み出す。……まこと、自然の摂理は深遠なものじゃな」
「ウンディーネが流れを調節してくれんなら、今度から弥槻の力はいらないってこと?」
「否。わらわにできるのは、流れを操ること。
流れる量を調整するのは、三日月の子の方が得意じゃ」
「ほぉん。そういうもんなのね」
「世界の為にも、まずは弥槻を探して助け出さないと、ですね!」

決意を秘めたエステルの言葉に、仲間だけではなくウンディーネも穏やかな笑顔で頷いた。
そのまま姿を消したウンディーネと、未だ空から帰ってこないイフリートのあまりの違いに、レイヴンも困惑した様子でため息を吐く。

「……なんつーか、精霊になる前と後でずいぶんとノリが違うもんねぇ」
「きっと価値観がまるきり変わるのよ。魚が鳥に変わるどころじゃなくね」
「あの方が健全で良いじゃねぇか。世を憂う賢人然としてるより、さ」

イフリートが飛んで行った上空を見つめ、ユーリが肩をすくめた。
フェローの聖核から生まれたとは言え、転生すればまったくの別人。


「弥槻、驚くだろうねぇ」

誰に言うでもなく呟いたレイヴンは、船に戻り始めた仲間に急かされて慌てて走り出した。
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