片翼の影

□十七ツ影
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「ガウッ!」
「弧月閃!」

前衛を担うユーリ達が、それぞれの刃を魔物へと放つ。
この魔物と言えるのかも分からない存在に攻撃が通用するか。皆いささかの不安はあったが、弥槻の氷の魔術にわずかに怯んだ事から、皆の攻撃法が変わった。
主にリタと弥槻が水や氷の魔術で攻撃の起点を作り、そして他の者が攻撃を繋いでいく。

「穢れ無き汝の清浄を、彼の者に与えん……。スプラッシュ!!」

容赦ない水の直撃に大きく身を震わせた次の瞬間、魔物が妙な動きをした。
かと思うと、あれほど弥槻達を照りつけていたはずの太陽は消え、辺りが暗くなったのだ。

「日が暮れた……!?」
「っ!?よ、夜になった!?」

驚いて空を見上げれば、そこに広がるのは満天の星空。
太陽など何処にも見えない。

「驚くのも良いけど、今はこっち!!」

驚きで止まっていた弥槻達の手は、レイヴンの叱咤に慌てて視線を魔物へと戻した。

「何なんだよこいつは……!」
「ホント。まったく得体が知れねぇわ。」

ユーリやレイヴンも、怪訝な顔をしながらも攻撃が止む事は無い。

「でも、お陰で動きやすくなったわ!!」

リタの言葉通り、先程までの暑さが鳴りを潜めたお陰で、随分動きやすくなった。
今のうちに弱点を突き、この戦いを早めに終わらせなければ。

「氷結よ、我が命に答え彼の者を薙ぎ払え!フリーズランサー!!」

弥槻の魔術が命中した。これで一度怯ませて、全員で連続攻撃を叩き込む。
しかし、先ほどとは何やら様子が違う。

何かがおかしい。
先ほどまでは、これまでのダメージの蓄積からわずかに下を向いていたのに、今はそれが持ち直しているようにも見える。

「持ち直した……!?」
「ちょっと!どうなってんのよ!」

弥槻に続いて、水属性の魔術を発動したリタの怒鳴り声に、慌ててカロルがスペクタクルズを魔物に向けると、彼は驚き目を見開いた。

「そんな……。火属性が弱点ってなってるよ!?」
「まさか……、昼夜を操って、自分の弱点を変化させてるの……?」
「あのダメージ、演技にゃ見えないからねぇ。」

信じられずとも、これが現実。
氷の魔術しか使えない弥槻は、笛から短剣に持ち替えて、魔物へ走った。


******



「まだ倒れないなんて……!」
「弥槻、一旦下がれ!体力考えろ!!」

時折昼夜が逆転し、それに合わせて前衛と後衛が入れ替わりながらも、魔物は確実に疲弊していた。
だが、それは弥槻達も同じこと。
限界は、とうの昔に越えていた。

水分を摂ることさえ叶わず。
照り付ける太陽と、砂漠の反射による熱射。
そして、蓄積していく疲労。

「……ボク、もう、ダメ……。」
「あたし、も……、もう……。」
「うぅ、前、見えない……。」

リタとカロルが、遂に膝をついた。
弥槻も体力の限界は近い。立っている事がやっとの状態では、戦う事もままならない。
だが、仲間が何人脱落しても、相手を倒すか全滅するまで戦いは終わらない。

「弧月閃!」

ジュディスの攻撃の合間を縫って、レイヴンの鋭い弓矢が容赦ない雨となって、魔物に降り注ぐ。

「爪竜連牙斬!!」

そして、ユーリの怒濤の攻撃に、遂に魔物がおぞましい鳴き声を発したかと思うと、そのまま溶けるように消えていった。

「……倒した、のか……?」

肩で息をしながら、立っている者達は顔を見合わせた。
静寂が戻ってきた砂漠に、荒い息遣いだけが聞こえる。

「……っ、とりあえず、倒れた三人に、水を……。」
「もう、動けません……。」
「さすがの俺様も、もう、限界……。」
「こりゃ、ちっとまずいな……」

暑さに強いレイヴンでさえ、どさりと倒れるこの暑さ。
ひとまず、サボテンから水を採らなければと思いながらも、ユーリももはや指一つ動かすことさえ叶わない。
崩れ落ちたユーリの耳に、どこか遠くで羽ばたく翼の音が聞こえた。
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