星喰み編

□第七十七羽
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「……悪い」
「……例え今取り返したって、あの様子だとまた来ます。
その理由を探る必要があると思うんです!」
「そうね。ここは幸いすぐフェローに会える場所。彼なら何か知ってるはずよ」
「だな。フェローの奴にも精霊の話をしなきゃだ」

仲間が魔物に連れて行かれたと言うのに冷静なものだ。
1人で取り乱してしたみたいだ、と自嘲する様に笑ったレイヴンは、不意に服の裾を引かれてそちらに目を向ける。
そこには、相変わらず不安そうな顔をしたカロルがいた。目を合わせる為に膝を付けば、彼はもうレイヴンの目に怒りが無いことに安堵した様な表情になる。

「弥槻が拐われて……、レイヴンがまた僕達を襲うのかと思った」
「……いや、ジュディスちゃんの表情が目に入らなかったら危なかったわー」
「えぇ!?」
「なーんてな!
攫ったのはあいつらだし、あいつらを1人で相手すんのは、さすがの俺様でもしんどいからさ〜」
「2人とも!バウルも落ち着いたそうよ。
フェローの所まで連れてってくれるって」

半ば本気でカロルをからかっていると、リタの呼び声が飛んできた。
仲間に弥槻を任されたと言うのに、すぐ側で彼女を拐われたバウルがちょうど落ち着いたと。
あの数の眷属に囲まれては、バウルでもどうしようもないのだから。

「そんじゃ、フェローに会いに行きますか!
弥槻の……、三日月の子について話してもらわなくっちゃな」
「そして、弥槻を助けに行くんです!」
「えぇ、そうね」

次の目的地は決まった。
船に乗り込んだユーリは、弥槻が消えた方を見つめて動かないレイヴンに気付き、彼の頭を1つ叩いて急いでるんだからと船に引っ張りあげた。
文句を言いながらも、大人しくそれに従うレイヴンは、彼らに見えない様にそっと心臓に手を伸ばした。


*
*


フェローがいる砂漠の岩場に向かうと、その周辺を傷だらけになりながらも飛び続けるフェローの姿があった。
近付いてきたバンエルティア号を見ると、ゆっくりと岩場に降りて行く。
そのあまりの変わりように、ジュディスが心配そうに悲鳴を上げる。以前の彼は、始祖の隷長の盟主と言われても頷けるほど自信に溢れた姿をしていた。やっと息をしている様なその姿に過去の面影は無い。

「フェロー、フェロー!
しっかりして……!ごめんなさい、私達の為に……!」
「……どういうこと?」
「ザウデで……、フェローは私達の囮になってくれたのよ」

どこか色あせたフェローを撫でながら、ジュディスは震える声で言う。
世界の為にそれが最善だったと応えたフェローは、痛む身体を震わせた。

「世界の命運は決し、我らはその務めを果たせず終わる。無念だ……」
「長年頑張ってきた割に諦めが早いんだな。
悪いけど、まだ終わっちゃいないぜ」
「ザウデは失われ、星喰みもかつての友と帰還した。
人間にも我らにも昔日の力は無い。これ以上、何が出来る」

今までずっと力強かったその言葉は、信じられない程に弱々しかった。ユーリが言うように、もう何もかも諦めたかの様。

「出来る出来ないの前に、そちらさんには聞かなきゃいけない事があんのよ」
「なんだ。……否、三日月が消えた事だな?」
「やっぱり知ってるんだね!
教えて、弥槻の事!弥槻が拐われたんだ!!」
「……時は無い。
我にも、月の子にも」

手短に話す、と頷いたフェローが語った言葉は、にわかには信じられないものだった。
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