星喰み編

□第七十七羽
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「見て!街に取り付いてるよ!!」
「あの黒いの……、前にコゴール砂漠で見たやつか!」
「前のはフェローの幻だったけど、今度のは本物よ。気を付けて」


ノードポリカの周辺には、以前砂漠で戦った魔物が飛んでいた。
あれはフェローが作り出した幻ではない。正真正銘星喰みの眷属は、まるで結界を食らおうとしている様だ。
奴らは結界のエアルに引き寄せられている……。そう気付いたリタの表情が険しくなる。

「うわぁ〜!?こんな相手が2匹もいるの!?」
「こりゃあ弥槻背負ったまま戦うのは無理だぞ!」
「げぇ……、やっぱりそう……?」
「えぇ、残念ながら。きっと庇いきれないわ。
弥槻はバウルに任せて、私達は二手に分かれましょう!」
「しゃーねーか!頼んだぜバウル!」

未だ目覚めない弥槻は船に寝かせて、ユーリ達は眷属達との戦闘に突入した。
2手に別れての戦闘は難なく終了した。軽く周囲を調査したリタ曰く、ノードポリカだけに星喰みの眷属が現れたのは、この街の結界魔導器の出力が上げられ、そのエアルに反応した為だった。
空の異変と、降り注ぐ魔物を見て万が一に備えた行動が、結果として仇となってしまった訳だ。

「……にしても、あの化け物。
戦士の殿堂の手練れが太刀打ち出来なかったのがどうも解せないねぇ」
「僕らは倒せたのにね」
「何か違いがあるとしたら……」
「精霊、かしらね?……みんな、ちょっと待っ)」

彼らにエアルの出力を変えないように伝えて船に戻る途中。ふとジュディスが空を見上げた。
会話を離脱した彼女は、聞こえてきたその声に目を見開いた。

「そんな……、どういう事なの!?」
「どしたの?ジュディスちゃん」
「バウルが眷属に襲われてる……!」
「何ですって!?」
「急ぐぞ!!」

ジュディスが報せた言葉は、予想外の事だった。一息つく間もなく走り出したユーリ達を待っていたのは、目を疑う様な光景。
バンエルティア号が見えなくなるほど、眷属が群がっている。振り払おうとしてか、バウルが何度も身体を揺らしているが効果は見えない。

「弥槻……!あの中にゃ弥槻がいるんだぞ!!」
「分かってる!だが、あんなんじゃバウルも降りてこられねぇ!!」
「くっそ……!」

あの高さでは、弓矢も魔術も届かない。唇を噛み締めたレイヴンは、連れてこなかった自分を許せない。
頭を掻きむしった彼は、望遠鏡を覗いていたパティの声に息を飲んだ。

「弥槻姐じゃ!!」
「どこ!?パティちゃん弥槻何処!?」
「あそこ!船尾におる!……んじゃが、眷属に囲まれてるのじゃ……!」
「弥槻……!1人じゃ無理です……!!」

パティが指し示した船尾は、眷属の密度が濃い。その中に弥槻がいると言われても、外套の色も見付けられそうにない。

「くそ……っ!」

悔しげに呻いたレイヴンは、どうすれば弥槻を助け出せるんだと頭を抱えた。


*
*


弥槻が目を開けたのは、バウルの緊迫した声が断続して聞こえたからだった。
誰の気配も無い船で、バウルが焦る様な事態とは何だろう。毛布を肩に掛けて船室を開けた弥槻は、息を飲んで扉を閉めた。

(あれは、砂漠で……!)

砂漠でフェローが作り出した幻影が、船に取り付いている。胸を抑えて心を落ち着かせながら窓から外を見ると、バンエルティア号に並走する様に魔物が飛んでいた。恐らく、周囲は既に取り囲まれているのだろう。

(どうしよう、どうすれば……!)

このままでは、バウルが地上に降りられない。考えあぐねていた弥槻は、背後にある扉が激しく叩かれている事に気付いた。
まさか、と思うより先に、破られた扉の向こうから魔物がなだれ込んできた。押し潰されてしまいそうだ。

万事休す。もう外にしか逃げ場が無い。

「くっ……!」

痛む頭を押さえながら、魔物を踏みしめた弥槻は外へと飛び出した。その後を着いて、魔物が追い掛けてくる。

「追われているのは、私……!?」
(迎えに来たよ)(迎えにきたよ)
(みんな待ってる)(後は君だけ)
「みんなって誰ですか!!」

誰と話しているんだ、とばかりにバウルが怪訝そうに鳴いた。
バウルにも聞こえないのか。幻聴にまで悩まされる事になった弥槻は、船尾まで逃げて来たものの、もうどうする事も出来ず座り込んでしまった。

「もう、訳が分からない……!」

助けを求めたくても、今は頼みのレイヴンがいない。頭を抱えた弥槻をまるで労るかのように、魔物が周囲を飛んでいる。

「嫌だ……、もういや……!助けて……!!」

いいよ。助けてあげる。
それは聞き慣れた声では無いのに、何故かとても懐かしい気がした。
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