星喰み編

□第七十六羽
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部屋の隅で毛布に丸まりながら、弥槻は1人で震えていた。
窓から見える空は今日も青い。だと言うのに、原因不明の悪寒が止まないのだ。
ユニオンの立て直し、帝国との協定、そしてザウデで消えた仲間の捜索。やる事は山のように聳えているのに、こうして部屋で震えているしか出来ない自分に腹が立つ。
レイヴンが顔を出しても震えが収まらないのを見て、彼も困った様な顔をした。

「……うぅ、どうしてこんな……!!」
「……弥槻、今日も駄目そうね……」
「す、しゅいませ……」
「なーに良いって事よ。
あ、そうそう!リタっち達が、ザウデの調査終えたそうよ」

彼女達と鉢合わせた調査ギルドからの情報らしい。
天才たるリタなら。きっと宙から顔を出した怪物を打ち倒す方法を思い付いてくれるだろう。

「じゃあ、わ、私も行く準備を……」
「うーんそうねぇ……。その状態じゃあ、一緒に行こうかとは言えないなぁ」
「そんな……!」
「弥槻はダングレストで待機しててね♡」

このままダングレストで待機。
驚きで震えも止まる。唖然とした弥槻は、聞こえてきた声に更に目を丸くした。

「何言ってんの、弥槻がいないとエアルの抑制上手く行かないわよ」
「……リ、タ……?」
「ほら、行くわよ。ビックリさせてあげるわ」
「あーんリタっち〜!!」

現れたのはリタ。彼女の後ろにはエステリーゼ達の姿も見える。
肩に毛布を引っ掛けたまま、彼女に手を引かれてユニオンの広間に足を踏み入れた弥槻は、人混みの中にその姿を認めるやいなや思わず駆け出していた。

「ユーリ!!」
「んぉ?……おいおい弥槻、ひっでぇ格好だな!」
「……っ、こ、これは……!……ってそれより大事な事がありますよね!?」

ユーリ・ローウェルが、ケロッとした様子で笑っているのが腹立たしくて、弥槻はその頬を引っ張った。引っ張られても反省の色は見られない。弥槻はもう少し指に力を込めた。

「ひゃひゅがにいひゃいぞ……」
「謝罪を要求します」
「言ったでしょ?驚かせてあげるって」
「ちょっとー。弥槻あれからずっと悪寒止まんないって言ったでしょー?
ホントに連れてくの?」

再会を喜んでいる弥槻を眺めながら、レイヴンは声を潜めてジュディスに耳打ちする。彼は、弥槻を連れて行く事に反対しているのだ。

「あら、上手く行く可能性が下がるのよ?弥槻を連れて行かずに星喰みが活性化してしまったら、おじ様シャレにならないわよ?」
「むぐぐ……、そーれは……、困るなぁ……。
……せっかく生きるっていう心づもりしたってのに」
「……話が見えないんですが」

聞こえてきた会話に振り向くと、レイヴンは険しい顔をしているし、ジュディスはいつもの様に微笑むだけ。その隣にいるカロルに目を向けるも、彼も良く分かっていないらしい。

「リタが、新たにエアルを調整する方法を見付けたんですよ」
「……なるほど」
「で、その調整の為にはエステルと弥槻の力が必要不可欠なのじゃ」
「なるほど……?」
「やってみれば分かるわ。理論は確立出来たんだから」

それは心強い。
確立したという理論を右から左に聞き流しながら、弥槻は肩に掛けたままの毛布を折り畳む。

「分かりました。行くのなら行きましょう」
「その前に、大事な事があるのよ」

まだ何かあるのか。
怪訝な顔した弥槻に構わず、リタは周囲にいるユニオンの面々に向き直った。
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