片翼の影

□十四ツ影
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「ここで、奴等をやり過ごすプランでーす。
……バット、ユーはこのまま、ダングレストへとゴーしてもらいます。」
「えっ、そんな!?
私はギルドの仕事でここにいるんですよ!!」

イエガーの言葉に、弥槻は信じられない思いでじたばたと暴れ始めた。
しかし、彼の考えは変わらないらしい。
暴れる弥槻の口許を覆いって無理矢理黙らせたイエガーは、追い付かれた、と小声で呟くと、手近のあった岩陰に身を潜めた。

「……あの野郎、何処行った……!!」
「レイヴン、待ってよ!
ここは、カドスの喉笛って呼ばれてるんだよ!
強い魔物が棲んでて、すっごく危険な所だって、前にナンが……、」
「その危険な所に、弥槻が連れ込まれてる訳だけど?」

暴れる事も叶わなくなった弥槻が耳を澄ますと、聞こえてくるのは自分を探しているらしい仲間達の声だった。
特にレイヴンは、普段の様な明るい声ではなく、至る所に怒りを滲ませている。

「顔色悪かった、何回も爆発に巻き込まれた。
そんな弥槻の体力はほとんど残ってない!
そんな状態で山越えなんかさせて死んだりなんかしたら……!!」
「心配なのは分かるけどよ。
……おっさん、落ち着け。」

苛立ちを撒き散らすレイヴンを宥めながら、ラピードが何か見付けたらしいぜ、とユーリの声が聞こえてきた。
それと同時に、イエガーが情けない声を上げて、岩影から引きずり出されたのだ。
イエガーを引きずり出したラピードが、弥槻の様子を窺っている。
そんな彼に大丈夫だと頷けば、ラピードはイエガーの襟を掴んで、無理矢理ユーリ達の前に立たせた。

「……さて。隠れてオレ達をやり過ごすつもりだったらしいな?」
「さぁてさて……、じっくり話を聞かせていただこうかねぇ。」

ユーリ達の前に立たされたイエガーは、先ほどとはうって変わって、今朝会った時と変わらないおどおどした様子で彼らを窺っている。
弥槻が岩影から這い出す間にも、ユーリ達が発する空気はどんどん冷たくなっていく。

「……オレ達を闘技場に立たせて、どうするつもりだったんだ?」
「とにかく、箱と弥槻を返しなさい!」
「し……、しし、仕方ないですね……。」

ユーリ、レイヴン、そしてリタの厳しい視線に晒されたイエガーは、困ったように頭を軽く振ったかと思うと、おもむろにその手を天井に向けた。
すると、何処に潜んでいたのか、赤いレンズを装着した一団が現れたのだ。

「あれは……、海凶の爪!?」

舞い降りた彼らは、着地すると同時に、ユーリ達へ向かっていく。
逃走の時間を稼ぐつもりなのだろう。

「離してっ!いやっ!レイヴンさん!!」
「弥槻!!」
「ラーギィが逃げるよ!!」
「待て、カロル、おっさん!
今はこっちが先だ!!」

再びイエガーに抱えられた##NAME5##は、どうにか脱出しようと試みるもなかなか上手くいかない。
時間経過により、体力が回復してきたとは言え、まだ子供と言える弥槻が大人の男の腕から逃げ出すのは至難の技だ。

「このまま洞窟を抜けるんですか!?」
「その答えはノーでーす。
ここを抜ければ砂漠。ベリーハードな逃げ道ですからネ。」
「えっ、砂漠……!?」

フェローがいると言う砂漠が、この洞窟を抜けた先に広がっている。
目を見開いた弥槻に、イエガーも困ったように笑う。

「アンダースタンドしましたカ?
だから、ユーの仲間をやり過ごしたかったんですヨ。」
「……私と箱を大人しく返せば済む話なんじゃ……?」

逃げ続けられる訳がない、と漏らした弥槻に、イエガーは小さく笑うだけで、何も言わなかった。



******



「……はぁ、諦めませんか。…………ッ!」

それからしばらく走ったイエガーは、後ろから聞こえてきたラピードの吠える声に、わざとらしく躓いた。
弥槻も落とされこそしなかったが、思わずイエガーの服を掴んでしまう程度には肝を冷やした。

「ひ……ッ!お、 おおお助けを!!」

これは好機と走り寄ってくるユーリ達。
しかし、弥槻達から少し離れた所で何故かその足を止めたのだ。
目を凝らして良く見ると、エアルが通路いっぱいに広がっているのが見える。

「こんな時に……っ!
待ってろ弥槻!すぐに……、」
「ダメです!レイヴンさん!!」

エアルの壁目掛けて駆け出そうとしたレイヴンを見て、弥槻が慌ててそれを止めた。
エアルに弱いらしいレイヴンがそんな無茶をすればどうなるのか、想像するだけでゾッとする。
レイヴンと同じく、エアルに耐性が無いらしいイエガーに地面に下ろされた弥槻。
どうにかして箱を取り返そうとイエガーの懐に手を突っ込んで探る弥槻は、突然現れた巨体を目にして、ふらつくイエガーに支えられる形になってしまった。
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