片翼の影

□十三ツ影
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リタやエステリーゼ達後衛が呪文を唱えやすいようにと、狙われているユーリは少し離れた所で戦っていた。
レイヴンの傍らまで舞い戻ってきた弥槻が、狙われているユーリのサポートに神経を使っていれば、自分よりさらに後ろにいるリタが怒鳴り声を上げる。

「あんたねぇ……!魔導器をそんな使い方して、許されるとでも思ってんの!?」
「ハハハ……!羨ましいのか?俺の左腕が!」
「そんな訳無いでしょ!ファイヤーボール!!」

威力は低いが、短い詠唱時間で済む彼女の十八番、ファイヤーボールがザギを襲う。
しかし、男はその攻撃を避けようともせず、奇怪な左腕を突き出したのだ。

「……っ、そんな!嘘でしょ!?」

リタの魔術は、ザギの魔導器の魔核へと吸い込まれ行く。
魔術を無効化される魔導器を相手にするには、魔術を主に戦うリタにとって圧倒的に不利。
絶句したリタに、ザギは高らかな笑い声を上げた。

「ヒャハハハ!!どうだ?俺の魔導器は!!」
「魔術を吸収ですって……!?無茶苦茶だわ、そんな使い方!!」

怒りで顔を赤らめたリタは、再び術式を組み上げ始める。
しかし、何度やっても結果は同じこと。
彼女の攻撃だけでなく、エステリーゼも、レイヴンの魔術も吸収されていく。

「駄目だ……!いくら魔術で攻撃しても、あの魔導器に吸い取られてしまっては意味が無い!」
「けど……!!」
「……待ってください!
あれ見て!吸収する度に、魔核の輝きが増しています!」

弥槻が指し示した先では、再びエステリーゼの魔術がザギの腕に吸収されていく。
それと同時に、魔核が赤く光っている。

「一か八か!」
「ちょ、おい弥槻!?」

レイヴンが止める声が聞こえてきたが、弥槻はそれを無視してザギに向かって駆け出した。
狙うは、彼の左腕だ。

「……捕まえた!」
「邪魔すんなつったろうが!!」
「心配しなくても、すぐに終わらせます!」

隙を見て、ザギの左腕にしがみついた。
そして、いつかの地下水道の時の様に、エアルを魔導器に流し込んでいく。

「……ぅぐ……、あ……っ、何を……!」

輝きを増す魔核に比例して、ザギも苦しみ始めた。
腕を振り回されながら、弥槻は意地でもその腕を離さない。

「弥槻、ダメよ!!」
「もう、少し……っ!」
「うぐぁぁぁぁぁあっ!?」

遠退きそうな意識を何とか繋ぎ止めなから、弥槻はザギの魔導器にエアルを流し続けた。
すると、遂に吸収出来る許容量を越えたのか、魔核が激しく光ったかと思うと、突然爆発したのだ。

「…………ッ!!」
「ぐぁぁぁあっ!!」

腕にしがみついていたせいで至近距離で爆発に巻き込まれた弥槻は、その爆発によって吹き飛ばされた。
ちょうど吹き飛ばされた先にいたフレンに受け止められたものの、破片が顔や手に刺さり赤く染めている。
立とうとしとも足元はふらつき、フレンに支えられてようやく立てるほどの傷だった。

「しっかりするんだ!!」
「……、分かって、ます……!!」

支えられながらも、何とか床に足を着けた弥槻の視線は、ザギの睨むような視線と交わった。
腕を押さえながら呻く彼は、まるで親の敵でも見るような表情だ。

「お前ぇ……、お前お前お前ぇぇぇぇえっ!!」
「マズイ!フレン、弥槻を……、」

お前、と連呼しながら、ザギが弥槻とフレン目掛けて突進してきた。
否、今の彼には弥槻しか見えていない。
ユーリが避けろと叫んでいるが、あいにく着込んでいる鎧のせいで、フレンは素早く動けない。

「……っ、駄目だ……!!」

フレンがとっさに手に持っていた盾を前に出そうとするより早く、二人の前に紫色の羽織が割り込んだ。

「おぉっと!ずいぶん熱烈だけど、おたくみたいな輩にゃ弥槻を渡せないのよねっ!!」
「レイヴン、さん……!」

見れば、レイヴンがその変型弓と短剣で、ザギの攻撃を弾き飛ばしている。
無事で済んだとホッとしたフレンは、彼がザギの相手をしている隙にと、駆け寄ってきたエステリーゼと共に急いで治癒術を施した。

「潰す!潰してやるゥ!!」

そう叫びながら、ザギはおもむろにその左腕を虚空に振り、赤い光の弾を打ち出した。
それは明後日の方向に飛んでいき、闘技場の一部を破壊してしまったのだ。

「……くぅ……ッ!」
「弥槻!?」
「弥槻!しっかり!!」
「おいおい、何か出てきたぜ……!!」

その爆風に、再び足元が揺らいだ弥槻が顔をしかめていると、破壊された方向に目を向けたフレンが息を飲むのが聞こえてきた。
怪訝に思った弥槻もそちらに目を向ければ、大きく空いた穴から魔物が多数なだれ込んでくるのが見える。

「……魔物……!?」
「冗談じゃ無いっつの!!」

驚いている弥槻達に、先ほど息を飲んだフレンは険しい表情をして弥槻を支えていた腕を離し、喧騒に負けないように叫んだ。

「見世物の為に捕まえてあった魔物だ!
おそらくさっきので攻撃で、魔物を閉じ込めていた結界魔導器が壊れたんだ!」

そう言い残すと、彼は一人で何処かに走り去っていった。
十中八九、待機させている部下を呼びに行ったのだろうが、今の弥槻達には、それを気にする余裕は無い。

「ぐあぁぁぁぁあ……っ!!」

時を同じくして、ザギも苦しそうに叫び声を上げたかと思うと、左腕を庇うようにしながら逃げ去っていった。
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