片翼の影
□十二ツ影
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「おいおい、物騒なモン振り回すなよ。」
「……な、何だお前!!」
「……コイツ……!……何ッ!?」
「私が悪いのなら、後でちゃんと謝るわ。
……どう見ても、あなたが悪いと思うのだけれど。」
ユーリがラーギィを庇い、ユーリに向けられた剣をジュディスがその槍で弾き飛ばした。
二人に睨まれた男達は、舌打ちを残して、あっという間に人混みのなかに消えていく。
それを見送って、集まっていた野次馬も解散していくと、弥槻はラーギィに声を掛ける。
「……お怪我は?」
「あ、あああなたは、ドン・ホワイトホースの……!」
「はい、お世話になってます。」
「ご、ごご親切にどうも……。」
ユーリ達に視線を向けながら、謝罪を述べるラーギィに、しかし弥槻は首を振って、カロルを彼の前に押し出した。
「あなたを助けたのは、私じゃないです。」
「……へ?……あ、うん!!」
「あ、ああなたがたは、昨日カウフマンさんと一緒にいた……。」
「ギルド・凛々の明星だよ!」
ちゃっかり宣伝することも忘れないカロルは、さすがと言うべきか、抜かり無いと言うべきか。
呆れるようなリタの言葉にも構わず、ユーリもラーギィへと声を掛けた。
「……あんたは……、遺構の門のラーギィだっけか。
喧嘩を止めたいんなら、まず腕っ節つける所から始めな。」
「あ、はい、すいません。ど、どうも……。」
「…………………。」
ユーリの言葉に、ラーギィは萎縮したように、目を伏せて小さくなっている。
しかし、その瞳が一瞬細められた様な気がして、弥槻は思わず彼から視線を外せなかった。
だが、それもたった一瞬の事。
次の瞬間には、いつも通りの不安げに揺れる瞳が、弥槻達に向けられる。
「あ……、あの……。皆さんを見込んで、お願いしたい事が、ありまして……。」
「遺構の門のお願いなら、放っておけないよね。」
幸福の市場、そして遺構の門。
2つの5大ギルドから、連続して依頼が来たのだ。
彼らの様な弱小ギルドは、こんなチャンスを逃す手は無い。
上手くやれれば、知名度が一気に上がること確実なのだから。
「ま、内容にもよるな。何だ?お願いって。」
「こ、この場で話すのはちょっと……。」
辺りを警戒しているのか、いつも以上に挙動不審なラーギィは、ここではなく、闘技場で話すからそこまで出向いてくれないか、と頼み、彼自身は一足先に闘技場へと向かって行った。
「人に聞かれたくない話か……。なぁんかヤバそうだねぇ。」
「……大丈夫なのかな……。」
人通りのある所では話せない。
それはつまり、それだけの危険を孕んでいると言う事。
いくら彼らの腕が立つからと言っても、大丈夫だとは言い切れない。
しかし、レイヴンと弥槻の渋る声にも、カロルは【知名度】という餌に今にも食い付きそうだ。
「でもホラ!遺構の門に顔が通れば、ギルドでの名も上がるし……!」
「欲張ると、一つひとつが疎かになるわよ。今の私達の仕事は、フェロー探索と、エステルの護衛じゃなかったかしら?」
ジュディスの言葉に、レイヴンも更に言葉を重ねる。
「そーそ。それに、ユニオンの重鎮、天を射る矢にはもう充分顔利いてんじゃない。」
「幹部であるレイヴンさんを連れ回す程度には顔利いてますからね。」
「そーそ……、って違うわよ!?
おっさんと弥槻は、こっちの仕事のために同行してるのであって……!」
「でも連れ回されてます。」
「……そ、そうだけどさ……。」
そんな話を聞いたカロルは、神妙な顔で頷いた。
途中から話が変わった事も気付かないようで、彼は真剣そのものだ。
「そうだね……うん、気を付けるよ。」
「でも、話を聞いてから受けるかどうか決めても遅くないかも知れません。」
「……そうだな……。」
エステリーゼの提案に、ひとまず話だけでも聞いてみようと言う事になり、弥槻達は闘技場に足を向けた。