片翼の影

□十一ツ影
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「降れ降れ星屑!クリッターズレイン!!」
「カチカチツルツルピキピキドカーン!!」
「落破ペインショット!!」

パティの攻撃のお陰で、他の仲間達の攻撃も次第に当たるようになってきた。
パティの降らせた銃弾の雨を起点として、止めとばかりに怒濤の攻撃を仕掛けると、さすがに耐えきれなかったのか、魔物は咆哮をあげると、遂に膝をついた。
息の根を止めようと、レイヴンが短剣を振りかぶるが、その前に魔物はおもむろに立ち上がる。
あまりにも無造作なその様子に、レイヴンも戦う意思が無いことを感じ取ったのか、短剣を懐に仕舞い、後方にいた弥槻の隣まで戻ってきた。

かと思うと、魔物は急に赤い光を放ち始めた。

「きゃ……!?」
「……眩しい……!」

光はすぐに収まったが、唐突な光に弥槻達の視界はチカチカと点滅しているようだ。
その間に、魔物は身体を反転させ、来たときと同じ様に鏡の中へ戻っていく。

「逃げるのじゃ!」
「待てパティ。
……別に、あれと白黒付けなきゃいけないって訳じゃねぇだろ。」

追い掛けようとしたパティは、ユーリの言葉に、しばらく複雑そうな顔を魔物に向けていたが、魔物はそのまま姿を消してしまった。

「……っはぁー……、勘弁してよもぉ……。」

ガックリと肩を落としたレイヴンの言葉で、張り詰めていた空気が一気に緩んだ。
レイヴンだけでなく、他の誰もが大小の差こそあれど、一様に肩の力を抜いていた。

「じゃあ、あの人に返してあげるのかしら?」
「絶対返した方が良いに決まってるじゃない!!」
「……あの魔物の物だとしたら、どうして骸骨はここに残っているんでしょうね?」

骸骨のような姿をしていたのだし、この箱を抱えていたのは、弥槻達の前に座り続ける死体なのだ。
鏡の向こうから襲われる謂れは無いのではないか、と言うのが弥槻の考えだった。
だが、他はそう思わないらしく、特にカロルとレイヴンは必死に首を振る。

「考えるより、まずその箱返すのが先だって!!」
「そ、そうだよ!
タイミングも弥槻が箱を取った時ピッタリだったし!!
早く返してあげた方が良いよ、弥槻!!」
「わ、分かりましたから!
……まだ箱の中身確認してないのに……。」

二人に詰め寄られた弥槻がタジタジになっていると、エステリーゼが控えめに手を挙げた。
弥槻が持つ澄明の刻晶を、ヨームゲンに届けたい、と言った彼女に、リタは慌てて食って掛かる。
しかし、エステリーゼは彼女にチラリと視線を向けただけで、何もなかったかのように言葉を続けた。

「……澄明の刻晶を届けることを、ギルドの仕事に加えては頂けないでしょうか……?」

だが、エステリーゼの言葉に、首領であるカロルはもちろん、所属していないレイヴンも渋い顔をした。

たった数人しかいないギルドである上に、発足してまだ日が浅い凛々の明星は、まだギルドとしての信用がほとんど無い。
小さい仕事でも、こつこつとこなしていく事が信用に繋がるのだ。

「……あら、またその娘の宛もない話に右往左往するのかしら?」
「……千年前の街ですよ?
途方もない話だって分かってますか?」

その上、ジュディスと弥槻にも否定的な発言をされたエステリーゼは、僅かに目を伏せた。
しかし、弥槻達の言葉に反応したのはエステリーゼだけではなかった。
リタが鋭い視線で睨むのを見て、エステリーゼが慌てて彼女を宥める。

「リタ、待って……!
ごめんなさい、ジュディス、弥槻……。
でも、この人の想いを届けてあげたい……。待っている人に。」

静かにこちらを見返すエステリーゼ。
あくまでも意思を曲げるつもりが無いらしい彼女に、弥槻は更に言葉を続けた。

「……墓に供えに行くんですか?
何処にあるか分からない街を探してまで?」
「……そ、れは……。」

わざと辛辣な言葉を選んだ。
ここまで言われては、さすがのエステリーゼも反論が見付からない様で、視線をしばらくさ迷わせていたが、遂に完全に黙り込んでしまった。
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