満月の子編(U)

□第六十羽
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シュヴァーン隊である三人の騎士達の後ろから現したレイヴン。
全員が息を飲む音が聞こえてきて、弥槻は姿を見せるタイミングを完全に逃してしまった。

「レイヴン……!」
「!!」
「おっさん!」
「レイヴン!」
「あなた……!」
「驚いたのじゃ……。」

仲間達の驚きを見せた一身に受けるレイヴンは、いつものふざけた様子で笑う。

「おう、レイヴン様参上よ。
……何なに?感動の再会に、心いっぱい胸がどきどき?」
「……おっさん。何しに来た?弥槻はどうした。」
「冷たいお言葉ねぇ。」

驚きからいち早く立ち直ったユーリが、レイヴンに問い掛ける。
名前が出た弥槻が、今なら足を踏み出せる、と思ったとき、不意にガシャガシャと騒がしい音が聞こえてきた。
見れば、背後から数人の騎士達がやってくる。

「弥槻。」
「言われずとも。」

レイヴンの呼び声に応えながら、弥槻は短剣と蹴りを駆使して、瞬く間に騎士達を伸した。

「弥槻まで!!」
「おぅ、お前ら!ここは任せるぜ!!」
「はっ!」
「了解であります!」

レイヴンの指示を受けたルブラン達が、警戒の為に去っていく。
それを唖然と見送るユーリ達に、レイヴンはニヤリと笑った。


「ま、こう言うワケよ。」
「レイヴン……!弥槻も……!!」
「言ったでしょ?ちょっと休憩したら『いく』って。
そう言う事で、よろしく頼むわ。」

二人が帰ってきてくれた。
その嬉しさに、カロルが顔を輝かせてレイヴンと弥槻に笑いかけた。
同じくパティやジュディスも安堵の表情を浮かべているが、全員が全員、彼をすぐには受け入れられない。
何せ、総てを擲って弥槻を選んだのだ。

「何言ってんのよ!信用出来る訳無いじゃない!」
「……おっさん、自分が何やったか忘れたとは言わせねぇぜ。」
「そっか。なら、サクっと殺っちゃってくれや。
生きるも死ぬも弥槻と一緒って決めてるから、弥槻も一緒にな。」

そう言いながら、レイヴンは懐から小刀を取り出し、ユーリに投げ渡す。
それを器用に受け取ったユーリに、リタが驚いたように声を上げた。

「ば……っ!何のつもりよ!
しかも一緒に死ぬって……!あんたはそれで良いの!?」
「構いません。
私を絶望の沼の底から引っ張りあげてくれたのは、他でもない彼ですから。」
「命が惜しかった訳じゃないはずなのに、何でかこうなっちまった。
ここでお前らに殺られちまうってなら、それはそれ。」

あっさりと言い放つ二人に、ジュディスはわずかに険しい表情を浮かべた。
アレクセイに刃向かった今、いずれ魔導器を止められてしまって命は無い。だからここで死んでも同じと言いたいのか、と問い掛ける彼女に、レイヴンはそんなんじゃない、と首を振る。

「アレクセイに対するけじめを付ける前に、大事なけじめを付けに来たのよ。」
「……じゃあ、凛々の明星の掟に従って、けじめを付けさせてもらうぜ。」

ユーリがレイヴンに渡された小刀を持って、レイヴンに歩み寄る。
まさか本当に殺すつもりなの?とカロルが口を開く前に、鈍い音が辺りに響いた。

「いっでぁ!?」

ユーリがレイヴンに喰らわせたのは、これでもかと言わんばかりの渾身の左ストレート。
見事に頬を捉えたその拳に、さすがのレイヴンも後ずさった。

「……って〜……!」

痛みに呻くレイヴンに向け、持っていた小刀を投げ捨てると、ユーリは毅然と言い放つ。

「あんたらの命、凛々の明星がもらった。生きるも死ぬもオレ達次第だ。
……こんなところでどうだ?カロル先生。」
「えへへ。さすがユーリ。バッチリだよ!」

ユーリの言葉に、カロルも微笑み返して言うと、彼に続いてレイヴンをぶん殴った。

「あだっ!」
「とりあえず、これが罰ね。」
「ありがたく受け取っとく……。」

ユーリに殴られ、小さな身体に似合わず力持ちのカロルに殴られ、思わずその場に倒れ込んだレイヴン。
それを見かねたのか、ジュディスが優しい微笑みと共にレイヴンに手を差し伸べる。
その手を取って立ち上がったレイヴンは、油断していた所を再び殴られた。

「ありがと、ジュディスちゃん……ってぶへっ!」
「フフ、油断は禁物よ?」
「はぐっ!」
「せっかくだから、あたしも打っとくわ。」

凛々の明星では無いのリタも便乗してレイヴンをぶん殴り、それに続いて、パティまでもがヒップアタックを食らわせる。
もはやレイヴンは満身創痍だ。

「ひ、ひどい……。」
「フレン、ついでにあんたもやっときなさいよ。」
「え、あ、いや僕は……。」

首を振ったフレンに、レイヴンはやっと終わった、と肩を落としながらも、その顔は笑っている。

「……私は良いんですか?」
「何?あんた殴られたいの?」
「違います。
不本意とは言え、生命力を吸った上にエアルで攻撃したんですよ?」

その事はどうなるのか、と首をかしげる弥槻に、ユーリ達はそんな事か、と顔を見合わせた。

「それはアレクセイへのツケだ。」
「帰ってきてくれただけで、チャラにしても良いくらいだよ。」
「リタなんて泣いてたわよ?」
「なっ、何余計な事言ってんのよ!
泣くわけ無いんだから!!」

顔を真っ赤にしたリタや、クスクスと笑うジュディス。
そして改めて無事を喜んでくれている彼らに、弥槻はじんわりと視界が滲んできた。

「……あれ……?」
「リタっちが弥槻を泣かせたーっ!!」
「泣いてなんか……、あれ、何で……?」

はらはらと涙を流す弥槻に、レイヴンが慌てて駆け寄った。
泣き笑いの様な笑顔を浮かべる弥槻を宥めるレイヴンに、ユーリは鋭く問い掛ける。

「……レイヴン、アレクセイの奴が何処にいるか分かるか?」
「……統率が取れてないからな。
いない可能性も頭に入れといて。
いるとしたら制御室だろう。」
「じゃ、弥槻が落ち着いたら行きましょ。」
「あぁ。」
「すいません……。」

どうにか涙を止めようと頑張っている弥槻に、カロルは大丈夫だよ、と笑いかける。

「でも、勝手に死んじゃダメだからね!レイヴン、弥槻!!」

レイヴンを殴ったユーリ達が、カロルの言葉に頷いて満面の笑みを浮かべると、先に歩き出した。
残ったフレンがレイヴンに歩み寄る。

「……良くご無事で……!」
「へ?……あぁ、ルブラン達のお陰でどうにかね。みっともない話さ。」
「……本当にあなただったんですね。」
「お前さんにも悪い事したな。殴られても文句は言わんよ。」
「私が言います。」

みんな遠慮が無さすぎる、と不満げな弥槻に苦笑いを浮かべながら、フレンは首を横に振る。

「……自分も、騎士団長に従い続けた身ですから。」
「……そか。そんじゃま、団長閣下に世話になったモン同士、落とし前付けに行くとするかね。」
「はい!」
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