レプリカ編
□Episode71
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「……何だか、随分慌ただしいね……。」
バチカルの街に到着すると、街中ではたくさんの兵士達がそこかしこを走り回っている。
「おい、何かあったのか?」
何か起こっている事は確かだが、一目見ただけでは何が起きているのか分からない。
ルークが近くを走り抜けようとした兵士の腕を掴み、立ち止まらせると、急いでいるらしい彼に断って疑問を投げ掛けた。
すると、彼は急いでるんだが、と渋る様子を見せたものの、渋々話し始める。
「ダアトから手配中のモースを発見して連行したんだ!」
「何ですって!」
ザレッホ火山で逃走して以来、行方不明になっていたモースを捕まえたのだと。
それを聞いたティアが驚きの声を上げた。
しかし、話はそれだけでは無かった。
「だが、隙を突いて逃げられてな……。
これから街を封鎖して捜索するところだ。」
「何この上げて落とす流れ。」
「そう簡単には行きませんか……。」
捕まえたと聞いたすぐ後に、逃げられたと聞かされた紫音達は揃って肩を落とした。
しかし、いち早く回復したナタリアが、一つ手を叩いて目を決意に目を輝かせる。
「では、まだモースはバチカルの何処かにいるのですわね!」
「よし。俺達もモースを探そう!」
そう言うなり、ナタリアとルークが我先にと駆け出した。
否、駆け出そうとした。
「ルーク、ナタリアも。
探す宛が無いのなら、逃走経路を予測する方が確実ですよ。」
「……っとと、それもそうか……。
何処から逃げるつもりだろう……。」
「まぁ、確実に城じゃないだろうね。」
「そう、ですわよね……。」
ルークの首根っこを掴んだジェイドが、やれやれとため息を吐きながら言う。
同じく駆け出そうとしたナタリアの手を握った紫音の言葉に、冷静さを取り戻した二人は、周囲を見渡しながら頭を捻っている。
「……あのモースが廃工場から逃げると思う?」
「無いと思いまーす。」
「だったら、船とかあり得るかもな。」
「船……、可能性は高いですね。」
「じゃあ、港へ行ってみましょう。」
ティアの言葉に頷いて、ルークとナタリアを先頭として、皆が港まで走り始める。
「モースは一人じゃないけどね!」
「誰かと一緒なのか?」
走りながらそう告げた紫音に、ルークが振り返りながら問う。
「逃走するにしても、一人では無理でしょうからね。」
それは予想出来ますが、誰と一緒にいるかが問題ですね、と言うジェイドに、紫音は分かんない!と言い返した。
「ディストは、グランコクマで厳重に監視されながらモンスターボール作ってるからね!」
「……では、あなたが知る未来では、モースの逃走に手を貸すのはディストだったんですね。」
「ディストの代わりに、いきなりヴァンが現れないと良いけどな!」
『んな事言ってっと、現実になるぜ。』
紫音の腰で揺れるルギアの言葉に、ガイは慌てて自分の口を塞いだ。
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「うぬぅ!もうすぐエルドラントが浮上すると言うのに、こんな所で捕まってたまるか!」
港に到着すると、海に向かって叫んでいるモースの姿があった。
まさか本当にいるとは、と険しい表情をしながら、ジェイドが紫音を一歩下がらせる。
「待て!モース!」
「潔くローレライ教団の査問会に出頭し、自らの罪を認めなさい!」
駆け寄ってきたルーク達を見て、モースは盛大に舌打ちをした。
ジェイドの後ろで、赤い下を出している紫音を見ると、まだ死んでいなかったのか、と更に苛立った表情を浮かべる。
「罪を認めろだと?
冗談ではない!罪を認めるのは、お前達の様に預言を無視する愚か者共だ!
私は正しい!お前達は何故それが分からぬのだ!」
一人で喚き散らすモースに、皆の表情が険しくなる。
骨の髄まで預言に侵されたモース。
そんな彼にとって、預言を撤廃した紫音達の方が大罪人なのだろう。
「おっしゃる通りです、モース様。」
そんなモースの言葉を肯定しながら現れたのは、リグレットだった。
教官……!と絶句したティアに構わず、リグレットはモースに歩み寄る。
待っていたと言わんばかりに笑みを浮かべ、大罪人共を捕らえろと声高に命じている。
「……ディストが離反しても、流れは変わんないんだね。」
「教官!何故です!?
モースと兄の目的は違うはずなのに……!!」
「もちろんですとも、モース様。
今回こそはぐれ者を仕留めてご覧に入れましょう。」
パチン、とリグレットが指を鳴らせば、ガシャガシャと騒がしい音を立てながら、神託の盾騎士団が紫音達を取り囲む。
「さぁ、モース様。
愚か者は捨て置き、エルドラントヘ参りましょう。」
リグレットが手を差し出す。
教官!とティアが叫ぶも、その声は彼女には聞き入れられない。
しかし、モースも動かない。
モース様?と怪訝な顔をするリグレットに、モースはちらりと紫音達に目を向けながら言った。