レプリカ編
□Episode70
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「……なぁ、ジェイド。
さっきの瘴気と超振動の事なんだけど……。」
スピノザの発言に、ルークが関心を持つだろう事は分かっていたのだろう。
ジェイドもそれを分かっているから、あれほど強引に話を逸らしたのだ。
そして、馬鹿な事だから忘れろと言った所で、ルークが引き下がるはずも無かった。
「それで本当に瘴気を中和出来るなら、やってみる価値はあるだろ?」
紫音はどう思う?とジェイドの隣を歩いていた紫音に話を振るも、それを遮ってジェイドは眼鏡を押し上げる。
「お忘れですか?あなたはレプリカで、ろくに超振動を制御する事も出来ない。
下手をすれば、あなたが死にます。」
「だったら!アッシュになら出来るんじゃないか?
もしもロニール雪山にまだアッシュがいたら、あいつに頼んで……、」
「……はぁ、私の言い方が悪かった様ですね。」
何を言っても諦めないルークに、遂にジェイドが折れた。
立ち止まって、真剣な表情になったジェイドに、ルークも思わず緊張の面持ちになっている。
「被験者であろうと、惑星1つを覆うほどの瘴気を消滅させる様な超振動は起こせません。
何か、力を増幅出来る物があるなら話は別ですが。」
「例えば?」
「あなたは本当に……。
つまり、超振動を使う事による身体の負担を軽減する物があれば良い。」
「だから、それは何なんだよ!」
言葉を濁すジェイドに、ルークは怒りを露にした。
そんな彼に、ジェイドは仕方無く話を再開する。
「1つはローレライの剣です。
あれならば、第七音素を大量に自分の傍へ集められます。」
「もう1つは?」
選択肢は多い方が良い。
そう思っている事が分かるルークに、ジェイドは無情な選択肢を提示した。
「大量の第七音素ですよ。
……そうですね……。第七音譜術士、あるいはその素養がある人間を、ざっと1万人も殺せば何とかなるかも知れませんね。」
「……い、1万人……。」
絶句したルークに、ジェイドは更に続ける。
超振動を使う人間も、反動で音素の乖離を起こして死ぬだろう、と。
「1万人の犠牲で瘴気は消える。
……まぁ、考え方によっては安いものかも知れませんね。」
「そんな……。」
残酷な言葉に、ルークの表情は一気に絶望に染まる。
だから忘れたと言ったんですよ、と言ったジェイドは、紫音の腕を引いて歩き出した。
些か強引なその腕に、紫音は先を歩くジェイドを見上げる。
「ちょ、痛いよ……!」
「…………説明が専門的だと言いましたね。
答えるまでも、わずかですが間があった。」
「な、何の事……?」
急に何の話だ、と目を白黒させる紫音に、ジェイドは先を歩く仲間にも、後ろにいるルークにも聞こえぬ様、小声で言う。
「…………預言に詠まれた禁忌とは、レプリカの事ですね?」
「…………!!」
ビクッと身体を震わせる紫音に、やはりそうですか……、と眼鏡を押し上げたジェイド。
レプリカの身体には、大量の第七音素が含まれている。
それを使えば、生け贄になる人は減るだろう。
それに気付いたジェイドは、険しい表情を浮かべている。
そんな彼に、紫音は何故分かったのか首をかしげた。
「分かりやすいんですよ、あなたは。」
「みんな気付いてないのに?」
「おや、私だから気付ける、と言った方が良かったですか?」
ジェイドはそう言って肩を竦めるものの、その表情は相変わらず。
「……この事は、誰にも言わない事。
まだ確証はありません。
それに、他に方法があるかも知れませんから。」
「言えないよ……、こんな事。」
「ルギアも。」
『いまいち分かってねぇから言わねぇよ。』
ジェイドの言葉に頷き、紫音は打ちひしがれているルークを迎えに行き、先に待っている仲間達の元へ急いだ。