レプリカ編

□Episode67
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「私、あの旅の後、預言の事をずっと考えていましたの。
世界はユリアの預言から外れた。にも関わらず、まだ預言に縛られている者の何と多い事か……。」

もはや、預言は絶対では無い。
しかし、なおも預言にすがり続ける者は、世界中にいる。
ヴァンが言っていた預言中毒。
それを、預言が無くなった今、目の当たりにする事になったのだ。
やっぱり不安なんだよ……、と漏らすアニスに、首を振る者は誰もいない。

「だからこそ、預言をどうしていくのか、国際的な会議を開催するべきだと思うのですわ。
……今回の件がモースの仕業であろうと無かろうと、これ以上預言を理由に愚かな真似をさせては駄目なのです。 その為には、導師のお力が必要なのですわ。」

ナタリアの言葉は正しい。
預言については、キムラスカやマルクトだけではなく、ローレライ教団の最高指導者であるイオンも必要だ。
アッシュもモースも行方が分からないなら、今やるべきは話し合いしか無い。

「……紫音。」
「おやおやー?ルークも預言中毒者?
当たるか分かんない、私の曖昧な記憶頼りにしちゃうの?」
「う……っ。」

ちらりと向けられた視線を笑ってやり過ごした紫音に、いざと言う時頼れないんだった、と肩を落としたルークは、これは仕方ないと気持ちを入れ換えたのだろう。

「……ふむ、ではナタリア。
旅立ちを許可しよう。」
「ありがとうございます!お父様!!」

ルークは、インゴベルト殿下の許可に、顔を綻ばせるナタリアと言葉を交わしている。
そんな彼らの影で、アニスが沈んだ表情を浮かべていた。

「……ダアトへ行くんだ……。」
「その方が良いと思うわ。
兄さんが生きていた事を知らせた方が良いでしょうし。」

ティアは、アニスの沈んだ様子に気付かない。

「それは手紙で知らせてあるよ。
だから、止めない?」
「……何だ?帰りたくないのか?」
「……うぅん。そうじゃ無いけど……。」

アニスの様子に、怪訝な顔をするも、ルークはあまり深く訊ねない。
言いたくない事でもあるんだろうと、そう納得しようとしているらしい。

「ルーク、ナタリアを頼むぞ。」
「あ……、はい。殿下。」
「ねぇ!!」

インゴベルト殿下にルークが頷いていると、アニスが不意に大声を上げた。
どうかしたのかと、皆の怪訝な視線を一身に浴びる彼女は、震えながらも紫音に目を向ける。

「……お願い、紫音は行かないで……!」
「何で?」
「理由は知らなくて良いからっ!!」

理由も無しに、そんな事を言われても、納得出来るはずが無い。
お願いだから、と懇願するアニスに笑いかけて、紫音は優しく言う。

「そのお願いは聞けないかなぁ。」
「じゃあ……、……じゃあ、やっぱり……、」
「心配しなくて良いよ、アニス。」
「……っ!!」

心配しなくて良い。
その言葉に絶句したアニスを他所に、紫音は仲間達に声を掛ける。

「……じゃあ、行こっか。」
「……ど、して……。」
「アニスを信じてるから。」

振り返らないままに言われた言葉に、アニスは座り込んでしまいたいのを必死に堪えて、何の話をしているんだ?と問いたげな仲間達を誤魔化す事に専念する。

「……さて、そろそろかなー。」
「へ?何が?」

ボールを弄りながら、そう呟いた紫音。
最後尾にいた彼女の呟きに、きょとんとしたルークが振り返れば、悪戯っぽく笑う紫音の後ろは、何やら風景が歪んでいた。

「紫音!?」

ルークの声に、何事かと全員が振り返る。
その間にも、歪みはどんどん大きくなり、その歪みの向こう側には、灼熱の火山道が見えていた。

「待って!紫音、止めて!!」

悲鳴のような声をあげ、アニスが駆け寄ってくる。

「心配いらないって。
ちょっと行ってくるね。」

普段通り、へらっと笑った紫音は、歪んだ空間に身を投げた。
アニスの手は、あと一歩間に合わなかった。
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