レプリカ編

□Episode67
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「おっと。」
「まぁ、相変わらず涼しい顔ですのね!」

胸ぐらを掴もうとしたナタリアの腕は、ジェイドが身体をずらしたせいで宙を掴むに止まった。
その手を握り締める彼女は、再びジェイドに詰め寄る。
避けられる事が分かっているからか、今度は捕まえようとはしないが、なかなかの剣幕だ。

「どう言う事ですの!?
我がキムラスカ王国は平和条約に基づき、マルクト軍に対して軍事活動を起こしてはいませんのよ!!」
「ナタリア、分かってるから落ち着こうよ……!」
「きゃー、王女様が怖いですー。」
「私を壁にしないで欲しいかなっ!!」

愉しそうなジェイドと、怒れるナタリアに挟まれた紫音は、たじたじにならざるを得ない。
アスランを始め、その場にいた者達は、キムラスカの攻撃ではない、と報告を上げているものも、恐らくその現場を目撃したケセドニアの人々が、そう噂しているのを耳に挟んだ可能性もある。

「あの場にいたフリングス少将も私も、キムラスカの攻撃じゃ無いって知ってるから!」
「ふむ、やはり端から見ればそうなるか。」

ふむふむ、と相変わらず紫音の背中を陣取りながらも考え込むジェイドに、少し冷静になったのか、ナタリアが目の前にいる紫音に目を向けた。
久し振りですわね、と言う挨拶もそこそこに、どう言うことですの?と問い掛ける彼女に、紫音は頬を掻く。

「うん、それを説明するために来たんだ。
ナタリア、インゴベルト殿下に説明するから取り次いで欲しいんだけど……。」
「えぇ、それは構いませんが……。」
「非公式にお願いしたいんだ。」

紫音とルークの言葉に頷いて、ナタリアはインゴベルト殿下の部屋に歩き始めた。


******


「……なるほど。そう言う事でしたの……。」

一通り事情を話し終えると、ナタリアはそっと目を伏せた。
彼女と同じく、話を聞いていたインゴベルト殿下も、マルクトを攻撃するように、との命令は下していない、と首を振る。
それに付け加え、キムラスカの無実を強調するナタリアに、ガイはやっぱりか、と頷いた。

「だが、こうなるとフリングス少将や紫音達を襲った奴らは、一体何者なんだ?」

ガイの疑問は尤もで、誰もが疑問に思っていた事だ。
それに答えたのは、ジェイドだった。

「……その事なのですが、フリングス少将は、正体不明の軍が死人の様な目をしていたと言いましたよね?
……私はあれが気に掛かります。」
「何か心当たりがあるのか?」
「断定は出来ませんが、フォミクリー実験による症状に、似た事例があるんです。
六神将が暗躍していた事も考えると、レプリカで兵士を作った可能性も捨て切れない。」
「レプリカ……。俺と同じ……。」

ジェイドの仮定に、ルークは少なからずショックを受けた様で、呆然とした様子で呟いた。
どうです?と確認の視線を向けられた紫音が、それを肯定するように頷いた事で、その目は更に見開かれた。

「何と言う事だ……。レプリカが我が国の名を騙って、何の利がある?」

インゴベルト殿下の疑問に、考え込んでいたティアが、ハッとした様に口を開く。

キムラスカとマルクトの関係を悪化させ、戦争を起こそうとしているのでは、と言う彼女に、皆が驚いた様に顔を見合わせる。

「それじゃあ、まるでモースと同じじゃないか!」
「モースは今どうなってんの?」

紫音がアニスに訊ねれば、彼女は一瞬身体を強張らせた。
分かんないなー、といつもの様に言おうとして、言葉を詰まらせたのを見逃すジェイドでは無い。

「……アニス。」
「………………っ!!」

ジェイドの低い声に、身体を震わせたアニスは、リグレットがアリエッタを無理矢理動かし、モースを輸送船から奪取したと、蒼白な顔で答えた。

「……自由を取り戻したモースなら、預言を再現する為には、キムラスカとマルクトを対立させるぐらいやりかねない。」

アニスの答えを聞き、ガイが言う。

モースが再び戦争を起こそうと画策している。

その話に、ナタリアは表情を引き締め、真剣な瞳をインゴベルト殿下へと向けた。

「……お父様、私をダアトへ行かせてください。」
「突然どうしたのだ?」

ナタリアの突然の言葉に、インゴベルト殿下は目に見えて狼狽えた。
そんな父に、ナタリアは静かに語る。
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