風の螺旋階段

□Episode05
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「頭領!」
「こいつ、例の導師の……!」

ロゼが言っていたアジトだと思われる遺跡の前で、彼女の仲間がロゼを待っていた。
何故ここに導師達が、と色めき立つ彼らに、スレイが事情を話そうとした時、ロゼはその背中から降りると、後ろを指す。

「その話も後!
追手を誘い込んだんだ。まずは、その始末が先。」
「え!?」

その言葉に驚いた彼らは、ロゼを先頭に再び森の中へと走っていく。
スレイとルミエールも、様子を見に行こうと走り出そうとするも、残っていた面々に腕を掴まれ、それは叶わなかった。

「待った。」
「……始末って……、本当に追手を殺すの?」
「相手次第、かな。」
「……なんか嫌なんだ、ロゼみたいな子が人を殺すの。」

その言葉で、拘束が緩くなった隙に、スレイはロゼ達を追い掛けて行った。
抜け出す様子の無いルミエールも、追い掛ける意志は無いと判断されたらしい。
そっと腕を解放された。

「……ロゼ、暗殺者なんだ。」
「俺達も、だけどね。」

肩を竦める彼は、見覚えがある。
時おり、孤児院にも商品を運んでくれたアン・トルメだ。
商人ギルド・セキレイの羽で活動する彼らが、暗殺者。
その事実に、ルミエールはそっと頭を抱えた。

「……誰にも言わないでね?」
「……言わない。と言うより、言えないよ。」

肩を竦めながら、そう答えたルミエールに満足したのか、彼はロゼ達が走っていった方へと歩き出した。
それを追い掛けながら、ルミエールは周囲を注意深く見る。
彼らと共に在るデゼルがいるかも知れない、という望みを込めて。
だが、見えるのは鬱蒼と繁った森ばかりで、少し歩くと、すぐにスレイ達に追い付いた。

「敗残兵狩りの相手を間違えたな。
見ての通り、あたしらは軍人じゃない。」

そこでは、ロゼがナイフを子供の首もとに宛てていた。

「ロゼ!止めて!!」

まさか、そんな子供まで殺すのか。
そう思ったルミエールが、慌てて制止の言葉を掛ける前に、ロゼは不意に少年を解放する。

「……もう行って。敗残兵狩りなんてもう辞めな!」

そう言ったロゼは、子供達に何枚かの金を渡すと、ナイフを懐に仕舞い込んだ。
子供達も、お金をもらった事で大人しく逃げていく。
それは間違いなく、戦争の余波だった。
孤児院で暮らす弟や妹達と、そう変わらない年齢の子供達が、野盗紛いの事をしているのだ。

「ルミエール。」
「……うん?」
「いたたまれない、って顔してるぞ?」
「……うん……。」

いたたまれないのは事実だ。
悲しげに笑ったルミエールに、ロゼは元気出しなって、と明るくその肩を叩く。

「親はいずとも子は育つ、って言うっしょ?」
「……何?それ。」
「……あれ?違ったかな?
まぁ、とにかく!あの子達も逞しく生きてるって事だよ!!」

ロゼなりに、ルミエールを励まそうとしてくれているらしい。
彼女の言葉に、少し気持ちが上向いてきたルミエールは、ふとスレイがロゼの顔を見ている事に気付いた。

「何?その顔?」
「いや……。」

それはロゼも同じ事。
怪訝な顔を向けたロゼに、スレイは罰が悪そうに視線をずらした。
何と言うべきか、言葉を探しているらしいスレイの心情を察してか、メンバーの青年が笑う。

「殺さなければならない者以外は、殺さないさ。」
「……じゃあ、オレは?」
「少なくとも、闇討ちみたいな真似はしない。
……けどスレイ、導師がやっぱり人を迷わせる邪悪な存在でしかないなら、躊躇なく、殺る。
……忘れんなよ?」

ニヤッ、と笑ったロゼはそう言うと、更に言葉を続ける。

「もう遅いぞ?助けた事を後悔しても。」

スレイがその言葉に面食らっていると、ギルドの仲間が口を開いた。
肝心の見極めをどうするのか、と。
その言葉に考え込み、仕事をするために下準備に困っているらしいロゼの様子に、スレイは吹き出し、ルミエールは怪訝な顔をした。

殺すと断言しておきながら、見極めると言う矛盾。
何故そんな反応をされるのか分からないらしいロゼは、首をかしげた。

「ごめん、なんかおかしくて……!」
「普通の暗殺者とは違うんだね。」

二人の言葉に頷いて、しばらく休めるよ、とロゼは遺跡の方へと歩き始めた。
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