風の螺旋階段

□Episode02
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「よぉ、導師。街の治安は見ての通りだ。」
「さすがだね、助かったよ。 」
「そっちの首尾は?」
「何とか終わったよ。」

ルミエール達がマーリンドに戻ると、警備にあたっていたルーカスが笑って出迎えた。
スレイが戻ってきた事で、マーリンドの警備もそろそろ終わりにするらしい。
疫病が治まった事により、警備隊も活動を再開、別の依頼も入ったと。

「……そっか。」
「……スレイ。」
「ん、大丈夫だよ、俺は。」

アリーシャに大丈夫だ、と言いながらも、スレイはスレイの表情は晴れない。
それに気を使ってか、ライラが休もうと声を掛けた。
断る理由も無いスレイは、アリーシャやルミエールと共に宿を取った。

「はーぁ、疲れたー……。」
「あぁ、あの憑魔は強かったからな。」
「今日はゆっくり休もう。」

そう言いながら、荷物を部屋に置いていると、突如、仲間のものでは無い声が部屋に飛び込んできた。

「明日には発つのか?マーリンドを。」

警戒していると、宿屋の窓から、謎の人影が姿を現したのだ。
いつでも天響術が使えるようにと身構えるルミエールを尻目に、スレイは謎の人物の問いかけに頷く。

「……うん、そのつもりだよ。」
「何故だ。」

スレイの中から現れたミクリオ達の厳しい視線を物ともせず、その人は同じ質問を繰り返す。

「何故だ?」
「……俺には、何が言いたいのか分かんないんだけど……。」

疑問に疑問で返したスレイが首を傾げると、もう一つ影が現れた。
増えたその人物に、ルミエールは思わずその男を凝視する。

「やはり、この方に憑いて……。」
「何故、マーリンドに留まらない?」
「突然何なんだ!」
「ガキには聞いちゃいない。導師に聞いてるんだ。」

彼の声を聞いて、確信を持ったルミエールだったが、しかし真剣な空気に口を開くことさえ出来ない。

「何故街を救った恩と称賛を捨てる?
何故そうまで自分を犠牲にする?」

重ねられる疑問の言葉に、スレイが真っ直ぐに彼を見据えた。

「ここで出来る事はやった。別の場所で知りたい事がある。ただそれだけ。」
「……変わってるな。」
「そっちこそ。」

その答えに、彼は口角を上げるとそのまま風に乗って、謎の人物と共に姿を消した。

「あの者達は?」
「分からない。けど、俺以外にもいるんだな。天族と一緒の人間が。」
「暗殺者だけど……、ってルミエール!何処に行くんだ!?」

彼らが姿を消したと同時に、ルミエールは部屋を飛び出した。
後ろからミクリオやアリーシャの声が聞こえるが、今はそれに構っている余裕は無い。

「……っ、兄さん!!
何処!?何処にいるの!?」

息を切らせ、日が暮れた街を走り回るルミエールだが、あの風は感じられない。
まさか、あの風の速さで、既に街から立ち去ってしまったのだろうか……。
一縷の希望を込めて、ルミエールはあらん限りの声でその名を呼んだ。

「デゼル兄さん!!」

彼の名前を叫ぶと、何処からか突風が吹いた。
懐かしいあの風だ。

「兄さ……、」
「振り返るな。」

風が収まった時、背後に感じた気配に振り返ろうとしたルミエールは、その低い声に動きを止めた。
仕方なく、背中を向けたまま話し掛ける。

「……デゼル兄さん、久し振り。」
「何で孤児院を出た。」
「……私の力を、正しく使うためにだよ。」
「…………そうか。」

そう呟くと、ややあってデゼルの大きな手が、ルミエールの頭に乗せられる。

「……悪い。俺は、お前に会わせる顔が無い。」
「デゼル兄さ……、」
「じゃあな、ルミエール。」

最後に、ポンっと軽く頭を叩いて、デゼルは再び風に乗って姿を消した。
今度こそ、街の何処にもデゼルの気配は無い。

「……兄さん……。」

久し振りに撫でられた頭を触りながら、変わってしまった彼の雰囲気に、ルミエールは少し悲しくなった。

「ルミエール!どうしたんだ?急に飛び出したりして……!!」
「……うん、ちょっとね……。」

宿屋に戻るなり、アリーシャやライラに叱られてしまったが、ルミエールの頭は、兄と慕う天族の事でいっぱいだった。
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