幼少期編

□Episode05
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「いい?
知らない人に付いて行かない、寄り道しない、ちゃんとこの地図通りに行くのよ?」
「わかってるです。
まいにちいってるスーパーです?」

玄関で、母親はもう何度目かになる注意を口酸っぱく言い聞かせる。
リンゴを買うためだけに、これから春茉一人でスーパーまで買いに行くのだ。

「そうなんだけど……。
リンゴ、明日じゃダメなの?」
「りーんーごー!!」
「あら、冬泉さん。」

行かせたくない母親と、どうしてもリンゴを食べたい春茉が、玄関先で言い合っていると、ちょうどお隣の典明と彼の母親が帰ってきた。
どうかしたのか、と首を傾げる二人に、母親は苦笑いと共に、春茉がこれからおつかいに行くのだ、と言う。

「我慢すれば良いのに……、まったく。」
「りんごたーべーるーっ!!」
「分かったから!」
「あらあら、春茉ちゃんはリンゴが大好きなのね。」
「はいです!」

二人のやり取りをニコニコ笑いながら眺めていた典明の母親は、ふと思い付いたように典明に言った。

「……そう言えば……。
今日チェリー買ってないわ。」
「えっ!?」
「ママがご飯の準備してる間に、典明が買ってきてくれたらなぁ……。」
「か、花京院さん……?」

突然何を言い出すのか。
理由が分からず怪訝な顔をする春茉達に、彼女は続ける。

「……でも、一人じゃ心配だし……。
春茉ちゃん、うちの典明とおつかい行ってくれないかしら?」
「わたしが、です?」
「はるなちゃんと?」
「そしたら、冬泉さんの心配も、ママの心配も無くなるわ。」

お願い出来る?
そう笑顔で聞かれれば、春茉は頷く以外に選択肢は無かった。



******




「はるなちゃん、僕のてをちゃんとにぎっててね!」
「うん!」

典明と二人で、スーパーへと向かう春茉は、はぐれないように彼の手を握り締める。
夕暮れ時の為か、幼稚園から帰るときよりも人が多い。
いつの間にか姿を現した春茉のトモダチは、まるで急かすように少し先でパタパタと羽ばたいている。

「……ひゃっ!?」
「!?はるなちゃん!!」
「……、ぶつかりました……。」
「……はるなちゃんは僕のうしろにいて。」

トモダチばかり見ていた春茉は、前から歩いていた通行人にぶつかってしまった。
いたいです、と鼻を押さえる春茉に、典明は自分の後ろを歩くように言った。

「はるなちゃんは僕がまもるからね。」
「のりあきくんが?」
「うん。
僕とみどりいろはまけないから!」
「ひとりでもへいきです。」
「……さっきぶつかった。」
「……ぶつかってません。」

頬を膨らませ、明後日の方向を見る春茉に、典明は少し困ったように俯いた。
かと思うと、一度手放した春茉の手を、ぎゅっと握ってきた。

「………………じゃあ、まいごにならないように、いっしょにいこう?」
「……のりあきくん、はぐれないでね。」
「うんっ、はるなちゃんもね。」
「はるなはね、はぐれませんよー。」

そう言いながらも、笑いながら手を引く典明と一緒に、春茉はスーパーへと向けて再び歩き始めた。
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