幼少期編

□Episode03
2ページ/3ページ




「ちょっと大きかったわね……。」
「……おててがみえないです……。」
「でも、似合ってるわ!
可愛いかわいい!!」

膝と同じくらいの長さのスカートとセーラー服、そして帽子も合わせて一式になった制服に身を包んだ春茉は、着慣れないせいもあって、少しぎこちない。
子供は成長するから、という理由で、少し大きめなその制服は、春茉が着られている感覚が無くもない。

「典明君に見せに行こっか!」
「どうしてです?」
「フフ、典明君のママに見せるって約束しちゃったの。」
「それはママのやくそくです!
はるなしらないもん!!」
「あぁ、ほらスカート握り締めないの。
しわしわになっちゃうから、ね?」

ぎゅっとスカートを握り絞め、嫌々と首を振る春茉に、母親は困り顔だ。
どうしたものか、と考えていると、タイミング良くお隣さんの声が聞こえてくる。
ちょうど出掛け先から帰ってきたところらしい。

「花京院さん!」
「あら、冬泉さん!
……まぁ!春茉ちゃん!!」

母親が典明の母親に声を掛ける前、どうにかして阻止しようと努力していた春茉だったが、それは叶うことは無かった。
あっさり見付けられた春茉は、人目も気にせず、火が付いたように泣き出した。

「うわぁぁぁあん!
ママのおばかさぁぁぁん!!
なんで、なんでっ、のりあきくんのおかあさんにっ、」
「よしよし、春茉ちゃん泣かないの。
せっかくのおめかしが台無しよ?」
「はるなちゃん、どうしていやなの?」

典明の母親、典明、そして彼のトモダチの三人に撫でられながら、春茉の目から溢れる涙はなかなか止まらない。
典明に理由を聞かれた春茉は、泣き腫らした顔で答える。

「……っ、だって、おててが、」
「うん、おててが?」
「なくなっちゃう……。」

その言葉に、典明はハッとした顔になり、母親二人は思わずといった様子で吹き出した。

「ママ、はるなちゃんのてがなくなっちゃうって!!」
「わたしのおてて……。」
「フフフ、大丈夫よ二人とも。」
「典明、春茉ちゃんのおてては、かくれんぼしてるだけなのよ。」
「……かくれんぼ……?
はるなちゃんのて、なくなったりしない?」

母親の言葉に、少し落ち着きを取り戻したものの、典明は未だ不安そうに春茉をチラチラと見ている。

「……僕が、春茉ちゃんのてをにぎってたら、かくれんぼしたりしない?」
「あら、それは良いわね!
典明も春茉ちゃんと同じ幼稚園だし。」
「……のりあきくんといっしょです?」
「うんっ、いっしょ!
だから、おててがなくならないように、僕がにぎってる。」
「…………うんっ!!」

優しく笑う典明に、春茉もにっこりと笑う。
その二人の様子を、母親二人が嬉々として見ていたことなど、春茉達には知るよしもなかった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ