魔核泥棒編

□第八羽
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『寝るときにはちゃんと鍵閉めなきゃダメよ!
弥槻ちゃん強いからって油断しないように!
おっさんがいないからって、遊びすぎちゃダメなんだからね!
あと、それから、それから…、』
『グチグチ言ってねぇで、さっさと行きやがれ馬っ鹿野郎!』
『ちょ、じいさん待ってまだ弥槻ちゃんに全部言い終わってな…、あぁーっ!』

言いたいことの半分も言い終わっていない様子のレイヴンが、痺れを切らしたドンから仕事に放り出されてから、一ヶ月が経った。
最初の数日は、何だかんだ気を使ってくれていた彼がいないことを寂しく思っていたが、最近はその寂しさにも慣れた。
だがそれでも、ふとした瞬間、レイヴンの声が無性に聞きたくなるのだ。

「……レイヴンさん、いつ帰って来るんでしょうか…。」
「さぁなぁ…。
その時によってまちまちなんだよ、レイヴンの仕事。
まぁ、弥槻がいるし、全力で終わらせてくるだろ。」
「そう信じて待ちます。」
「その心持ちだ。
さて、さっさとドンに報告済ませちまおうぜ。」

その言葉と共に、ハリーがユニオン本部、ドンの謁見部屋の扉を開くと、そこには既に先客がいた。
ハリーが「あっ、やべっ!」と漏らすのと、ドンの凄まじい怒号が飛んできたのはほぼ同時だった。
空気を震わすその声に、弥槻やハリーだけでなく、先にドンと面会していた男も身を竦める。

「ノックも出来ねぇのかこの馬鹿が!あぁっ!?」
「い、い良いんですよ、ドン、わ、私の話は、然程重要じゃ、あ、ありませんから…。」
「そうは行かねぇ。
ラーギィ、お前ぇさんとこが新たに発掘した魔導器、買うか売るかの話じゃねぇか。」
「う、売るのは、よ、喜んで…。」

どうやら男はラーギィと言うらしい。
どんな人物か分からず、首を傾げる弥槻に、ハリーがそっと教えてくれた。
ギルド界を纏める五大ギルドの一角、【遺構の門】の首領だと。
パッと見ただけではそうと分からないが、レイヴンと同じく【実は凄い人】なのだ。

「あぁ、そうだ。
ラーギィ、紹介してやるよ。
お前ぇが持ってきた曰く付きの魔導器を使える新人だ。」
「ほ、ほほ本当ですか…!?
あ、あれを扱える方がい、いなくて、私も、ドンも、困っていたんですよ…。」
「そうだったんですか?」

ラーギィの瞳が、一瞬細められた気がした。
しかし、それもほんの僅かなこと。
すぐにおどおどしながらもぎこちない笑みを浮かべ、弥槻と握手を求めてきた。

「わ、私たちは、魔導器を発掘することしか、で、出来ませんから。
あなたのような、か、方に使って貰えれば、魔導器もきっと、よ、喜びます。」
「そんな事…、」
「私は、【遺構の門】首領、ラーギィとも、申します。
以後、お、お見知りおきを。」
「え?あ……っ!」

弥槻が自己紹介する前に、自分だけ名乗ったラーギィはそそくさとお辞儀をして出ていった。
着いていけない弥槻は唖然とするだけで、ドンの深い溜め息でようやく我に返った。

「あいつぁどうにもやりにくい。
シャキッとしろと言ったところで、良くなるたぁ思えねぇし。」
「でも、凄い人なんですよね。」
「おぉ、あいつの発掘の鼻は一級品だ。」

その人の中身は、少し話しただけでは分からないものだ。
そんな当たり前の事を、この世界に来てから痛いほど痛感している。
弥槻がそんな事を考えていると、扉の向こうからラーギィの悲鳴と、別の人間の怒鳴り声が聞こえてきた。
ハリーと共にそっと覗いてみれば、ちょうど角でぶつかったらしく、仁王立ちした男と、ひたすら謝り倒すラーギィの姿。
それは、どう見ても五大ギルドの一角を担う首領には見えず、ドンは再び深い溜め息を吐いた。
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