魔核泥棒編
□第七羽
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「ほいよ、お待たせー!」
「遅すぎる!」
「ほらー、弥槻ちゃんのせいで怒られちゃったじゃないのー…。」
「えっ、私…、ですか?」
「十中八九お前ぇのせいだろ、レイヴン。」
「ギクッ!」
どんなに急ごうにも、前を歩くレイヴンがのんびり歩くために、弥槻も歩くスピードが落ちる。
それならば、とレイヴンを置いて先に行こうにも、歩き出す前に腕を掴まれるため、それもままならない。
仕方無くレイヴンに合わせて歩いた結果、「遅すぎる!」と一喝されたのだ。
「まぁまぁ、そうカッカしなさんなって。」
「……………。」
「…遅れて申し訳ありません。
手合わせ、お願いでしますでしょうか?」
相変わらずヘラヘラしているレイヴンをキツく睨み付ける青年。
他にはドンしかいないため、恐らく彼がハリーだろう。
そう検討を付けた弥槻が、そっと声をかける。
レイヴンがいたとは言え、遅くなったこちらに非があるのだ。
「……………。
女だと聞いていたから手加減するつもりだったが…、気が変わった。」
「本気で手合わせしていただけるようで、恐縮です。」
「二人ともやる気満々みてぇだな。
バシッとやれ!」
「弥槻ちゃん傷物にしたら許さないからねー。」
「…っ、野次は黙ってろ!」
壁に寄り掛かりながら観戦するレイヴンと祖父にそう怒鳴り返したハリーは、集中するように息を一つ吐く。
弥槻も目を閉じ、始まりの合図を待つ。
「―…存分に仕合え!」
その言葉を合図に、金属と金属がぶつかり合う音が響いた。
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「………くっそぉ…!」
「油断しやがったな。」
「弥槻ちゃん流石ーっ!」
「やりましたよレイヴンさん!」
手合わせは弥槻の勝利に終わった。
ハリーの攻撃を掻い潜り、短剣を彼の喉元に突き付けたのだ。
落ち込む自分のすぐ横で、無邪気に喜ぶ弥槻に恨みがましい視線を送るハリーに、レイヴンもドンも苦笑いだ。
「あの袖卑怯だ…!」
「弥槻ちゃんの袖が?何で?」
「攻撃読みにくいんだよ!」
「言い訳してんじゃねぇ!」
「いってぇ!」
負け惜しみを言うハリーの頭に、ドンの拳が叩き込まれる。
痛みに沈黙したハリーをそのままに、ドンが弥槻に向き直った。
「まぁ、とにかくだ。
歓迎するぜ、お前ぇはもう【天を射る矢】の一員だ。」
そう良いながら、力加減もなく頭を撫でられ、弥槻は目眩がしそうだった。
だが、それでも嬉しかった。
やっとシュヴァーンを探す足掛かりが出来たのだから。
「聞いたかも知れねぇが、人探しはちっとばかしお預けだがな。
さっさと仕事片付けて来いとでも頼み込んどけ。」
「お願いしますよ、レイヴンさん。」
「弥槻ちゃんにお願いされちゃあ、おっさん頑張るしかないわねー。」
「仕事から逃げ回っといてよく言えたもんだな?」
カラカラと笑うレイヴンに、ドンからの厳しい叱咤が飛ぶ。
どうやら、弥槻がこちらに来る以前から、あれこれ言い訳をつけて仕事をしていなかったそうなのだ。
「………あれで、幹部…。」
「驚きますよね。
改めてお願いします。……先輩?」
「生意気な下っ端が増えたな…。」
「後輩、と言ってください。」
「じいさんっ、ちょ、待っ、いぃだだだだだたっ!」
また失言をしたのか、レイヴンが思い切り頬をつねられている。
ドンがそれをやれば、あまりの痛さに気絶しかねない。
その激痛を想像した二人は、顔を見合わせて身震いをした。
(……弥槻…って言ったか?
よくあんな師匠であそこまで強くなれたな。)
(……レイヴンさんの本気は強いですよ?)
(……知ってる。
でも、あれを見るとなぁ…。)
(おっさん痛くて死んじゃうぅぅ…。)
((……………はぁ…。))