魔核泥棒編

□第七羽
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「弥槻ちゃん、やっほー!」
「レイヴンさん!
どうしたんですか?」
「再試験のお知らせ。
今度はじいさんじゃなくて、その孫のハリーが相手。」

一人で魔術の練習をしていた弥槻は、レイヴンの言葉に顔を輝かせた。
これに合格すれば、弥槻は晴れて【天を射る矢】の一員となり、仕事と共に、本格的にシュヴァーンを探すことが出来るようになるのだ。

「あとも一個お知らせよー。
……ゴメンね弥槻ちゃん。
合格しても、すぐに人探しに付き合ってあげらんないみたい。」
「……仕事ですか?」
「ん、正解。
探すの付き合えない代わりに、おっさんの特別情報ルートからも探ってみるから!」

ギルドの幹部でもあるレイヴン。
今までこうして弥槻の修行に付き合ってくれていたのも、きっとドンの計らいだったのだろう。
だが、きっとレイヴンにしか出来ない仕事がある。
今回は、遂にその仕事が回ってきたのだ。

「レイヴンさん幹部してますもんね。
フフ、レイヴンさんが仕事終わって帰って来る頃には、私はもうシュヴァーンさんと再会してるかも知れませんよ?」
「えっ、そうなったらおっさんはお役御免じゃないの!
せっかく仲良くなってきたのにーっ!」

わんわんと泣く真似をするレイヴンだが、隠しきれていない口許は笑っている。
弥槻もそれが冗談だと分かって、あえてその冗談に乗ったまま話を進めた。

「優しくも負けず嫌いな師匠のことは、決して忘れません…!」
「ちょっと弥槻ちゃん!
まるでおっさん死んじゃったみたいじゃないの!」
「そんなつもり無かったんですよ?」
「弥槻ちゃんをそんな子に育てた覚えありませんっ!」
「育てられていませーん!」

弥槻にとって、その一言はじゃれあいの延長線上の言葉だった。
だがレイヴンは、その言葉に一瞬だけ本気で傷付いたように目を伏せた。

(………え?)

瞬きする間に、普段のようなおどけた振る舞いで「おっさん凹むー…。」とわざとらしく膝を抱える彼に、弥槻はどうすればいいのか困惑した。

レイヴンを本気で傷付けてしまったのか。
それとも、弥槻の思い違いだったのか。

「あの、レイヴンさん…、」
「シュヴァーンって騎士に絶対文句言ってやるーっ!
お宅どんな教育したのって問い詰めてやるーっ!」

ジタバタと駄々をこねるように文句を言い始めたレイヴンを宥めながら、弥槻は内心ホッと息を吐いた。
やはり、あの一瞬はただの勘違いだったのだ、と。
あまり待たせる訳には行かないだろう、とレイヴンの背中を押しながら、弥槻はドンやハリーが待つユニオン本部へと足を向けた。

「ちゃんと出来るかどうか、見ててくださいよ、師匠!」
「トホホ…、弟子はこうやって巣立っていくのね…。」

だから、気付かなかった。
弥槻に背中を押されるレイヴンが、痛みに耐えるように唇を噛み締めていたことに。
その瞳を、悲痛に細めていたことに。
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