魔核泥棒編

□第一羽
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ー…シュヴァーンさん…。

夕暮れのダングレストで、呼ばれるはずの無い名で呼ばれた気がして、男…ーレイヴンは振り返った。
だが、後ろには変わらぬ雑踏があるばかりで、やはり気のせいかと考え直す。

「…何のんびり歩いてんだ。」
「はいはい、すいませんね。」

呼ばれたため、慌てて連れと足並みを揃えるが、やはり先ほどの呼び声が気になる。
ロケットペンダントを手に、チラチラ後ろを振り返るレイヴンに業を煮やした連れは、舌打ちの後にそのペンダントを奪い取った。

「…あっ、てめそれ返しやがれ!」
「はん、ペンダントなんざ女々しいもん、大切に持ち歩くなんざ笑いもんだな。」

鼻で笑った連れは、何のためらいもなくそのペンダントを投げ捨てる。
放物線を描き、ペンダントが落ちる先は…、河。
それなりに深さのある河、流されてしまえば捜すのは困難を極める。


それだけは困る。
あのペンダントを無くしてしまうことは、どうしても許せない。

一年前、間違いなく弥槻と過ごしたと証明してくれる、唯一の証拠なのだから。

連れに文句を言うのは後回しだ。

「……のやろっ!」

必死に手を伸ばすが、後少しが届かない。

「弥槻ーっ!」

思わず叫んだ声に呼応するように、宙を舞うペンダントが光を放ち始めた。
そして、光を中心として顕れた時計の針が、ぐるぐると回る。
今まで見たことがない現象だ。
レイヴンも、連れも、道を歩く人々も、息も忘れてその光景に見入る。

「おいっ、何だあれは…っ!」
「人じゃないのかい!?」
「おいおいマジかよ…。」

光の向こうに見えた影が、どんどん色濃く形作られ、遂にははっきり姿を確認できるまでになった。

白い髪。
左右で違うその瞳。
そして特徴的な痣。

彼女の姿は、ペンダントに納められた写真の彼女とあまりに酷似していた。
だから、足場がなく、ペンダントと共に水に落ちた彼女を救うために、レイヴンは今度こそ躊躇い無く水に飛び込んだ。

そして、間近で見て気付く。

(……弥槻…、じゃ、ない…?)

水を飲み込んだのか、ぐったりしている彼女は、レイヴンの記憶にある彼女とは似て非なる姿だった。
最大の違いは、彼女が明らかに大人の女性であること。

「……あだっ。」

遅れて落ちてきたペンダントと彼女を抱えて岸まで泳ぎながら、レイヴンは予感が外れることを切実に願った。




(…嬢ちゃんがホントに弥槻だったら。)
(約束、守れたことになるのかね。)

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