常闇の光
□サヨナラノウタ
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「……また…、会えますか?」
「そりゃもちろん…、えっ?」
「また、私のご飯食べてくれますか?
違う世界のお話をしてくれますか?」
「…弥槻…。」
「…また、手を繋いでくれますか?」
「………あぁ。」
弥槻は我が儘を言わなかった。
ずっと「連れて行って欲しい」と言っていただけに、シュヴァーンとしては寂しい気がした。
泣くのを必死に我慢しながら、来るかどうか分からない「また」その時に、今までの様に接してくれるのかひたすら聞いてくる弥槻。
「…待って。
連れて行って、って言わないの?」
「……だって!」
自分でも、大きな声を出すつもりは無かったのだろう。
慌てて口を塞いだ弥槻は、少し声を落として口を開いた。
「…だって、シュヴァーンさんにワガママ言っても、シュヴァーンさん困らせちゃいますから…。」
そう言って笑った弥槻は、何も言わないまま靴を履いて花吹雪のなかに走り去った。
伸ばした腕は彼女を捉えることも無く、虚空を掴んだ手のひらは、舞い落ちてきた花弁しか残らなかった。
「…馬鹿。
まだ俺は、何も言ってない!」
ありがとうも。
楽しかったも。
そして、サヨナラさえも。
ー…ドクン
「……………っくは…!」
弥槻……!
俺は、まだ帰れない…っ!
心臓が痛い。
視界が霞む。
ふらつく身体に鞭打ちながら、シュヴァーンは弥槻を探し続けた。
だが、露天で賑わう通りにも、アーチのように桜が立ち並ぶ並木道にも、まして、花見客の中にも、弥槻を見付けることが出来ない。
途切れがちだった痛みも、今はもう断続的に続いている。
早く見付けなければ、本当にこのままになってしまう。
泣き虫な弥槻は、きっと一人で泣いている。
弥槻を泣かせたまま帰るのは、絶対に嫌だった。
「…何処にいるんだよ…っ!」
シュヴァーンの苛立ちは、側に立つ桜しか聞いていなかった。