常闇の光

□サヨナラノウタ
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「……あれっ、弥槻?」

人混みのなか、さっきまで彼女を握っていた手が突然軽くなった。
立ち止まって辺りを見渡すも、人の波と桜吹雪のなかで、弥槻を探すのは至難の技だ。

「弥槻ーっ!
どこだ、弥槻ーっ!」

行き交う人がシュヴァーンを煩わしげに見るが、今はそれどころではない。
大声で弥槻を呼ぶも、喧騒にかき消されて響かなかった。

その時。
後ろから何かがぶつかった衝撃があった。
何事かと振り向けば、そこには見慣れた少女と泣きそうな瞳。
弥槻の方も、シュヴァーンを探していたらしかった。

「良かった…!
シュヴァーンさんが消えてなくて良かったぁ…っ!」
「ほら泣くな。
俺はここにいるから。」
「うん、うん…っ!
でもね、桜がね、私を置いて、シュヴァーンさんだけ連れて行っちゃいそうで、怖かった…っ!」

本格的に泣き始めた弥槻を宥めながら、シュヴァーンは彼女の言葉に内心驚いていた。
彼女は、無意識の内にシュヴァーンが帰ろうとしていることに気付いていたのだろう。

「弥槻、人が増えてきた。
さっきの場所に戻ろう。」

弁当を食べながら話せるほど、軽い内容でないのは分かっている。
だが、弥槻が気付いている以上、嘘は吐けない。

(……また泣かせるのか…。)

この世界に来てから、彼女を泣かせっぱなしだ。
そう思ったシュヴァーンは、俯く弥槻に見えないように、自嘲するように笑った。



******




「…シュヴァーンさん…?
美味しくない…?」
「いや?
いつも通り美味いぞ。」
「……浮かない顔して言われても嬉しくないです。」
「……お見通し、か。
弥槻に嘘は吐けないな。」

心配そうな弥槻に、そう笑って見せるが、彼女はそれでは許してくれなかった。
無言で見詰められ、無言で咎められることには慣れているシュヴァーンも、さすがに弥槻相手には隠し通せない。

「……帰っちゃうんですね。」
「……………。」

たった一言で言い当てられ、次に来る言葉を予想してシュヴァーンは頭をフル回転させていた。


まだ弥槻は護身術も身に付けてないから。
自分が生まれ育った場所で生きていくべき。
自分自身が忙しいから…。

様々な言い訳が、浮かんではすぐに消えていくなか、一つだけ消えない気持ち。

弥槻に傷付いて欲しくないから。

この気持ちを伝えればいいんだと、シュヴァーンが腹を括ったとき、弥槻がポツリと呟いたのは、シュヴァーンの予想を裏切るものだった。
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