常闇の光

□サヨナラノウタ
2ページ/7ページ




「ホンットじゃじゃ馬なんだから…。」
「お弁当無事だからいいじゃないですかー…。」
「俺が助けたからだろう。」

二人で座るのにちょうどいいシートを広げながら、シュヴァーンは相変わらずの弥槻に溜め息を漏らした。
何度言っても、周りに注意を払わない彼女に、いつしかシュヴァーンも口うるさく言うのを止めた。

「そうです!
転びそうになっても、シュヴァーンさんが助けてくれますから。」
「……俺頼みなんだな。」
「はい!」

突然何を言い出すのかと思えば、弥槻が口にしたのはシュヴァーンに対する全幅の信頼。
その言葉の後で、嬉しそうに弁当の準備をする彼女に言えるわけがなかった。

そろそろ帰るタイムリミットらしい、と。

「…弥槻。」
「はいっ!」
「…………まだ昼には早いだろ。
場所も取ったことだし、バスケットは俺が持つから、ちょっと散策しないか?」
「……あっ、ホントだ。」

出したばかりの弁当を慌てて仕舞う弥槻に、シュヴァーンは小さな苦笑いが浮かんだ。
タイミングを見計らって手を差し出せば、彼女はキョトンとした顔をする。

遊園地に行ったときにも、似たような顔をしていたな…。

やはり弥槻は、言わなければ分からないらしい。

「…お手をどうぞ?お嬢様。」

そう言って大袈裟なほど身ぶりをつけて手を差し出してみると、彼女は相変わらずのポカンとしている。

「……騎士なのに、どこでそんなの覚えたんですか?」
「………このお誘いに対しての答えがそれ?
俺は元々貴族なの!」

確かにこれまで騎士らしい振る舞いをしたことはあったが、封印していた貴族の振る舞いはしたことは無い。
だが、それにしても弥槻の返事は的外れ過ぎて反応に困る。

「で、ホラ。
手を握らないと、誰かさんはすぐ転ぶからな。」

雰囲気をリセットするために、咳払いをしながら再度手を差し出すと、弥槻は満面の笑みで手を握ってきた。
嬉しそうに腕を振りながら歩く彼女に、いつ切り出そうかと、花吹雪のなかシュヴァーンの心は憂鬱だった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ