常闇の光

□芽吹く
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「It is as what!?
Can't a cherry tree be seen!?」
(何だって!?
じゃあ、桜を見ることが出来ないのか!)
「い、yes….」

時間がかかりそうだと考えたシュヴァーンが、米を買うために席を外した間に、男を絶望させる何かがあったらしい。
戻ってきたシュヴァーンが目にしたものは、悲壮な顔をして弥槻の肩に掴みかかる男。
ビクリと体を震わせた弥槻に構うことなく、今度は思い切り項垂れる。
落ち着きのない男だ。

「大丈夫か?」
「あっ、シュヴァーンさん。」
「何があればこうなるんだ…。」
「……あはは…。」

何でも、男はアメリカから来たイタリア人。
リュウガクをするついでに観光しようと、ガイドブック片手に旅をしているらしい。

「…桜を見に来たらしいんですけど、まだ咲いていない、咲くのは一週間後くらいですよって言ったら…。」
「こうなった、と…。」

よほど期待していたのだろう。
座り込んだ男は、ガイドブックに向かって何か呟いていた。
少しだけとは言え関わった以上、このまま置いていくのは気が引ける。

「……仕方無いなぁ…。」

弥槻は、その手で玩んでいた一輪の花を、そっと男に差し出した。

「…えっと…、
This is cherry blossom.
Smol flower…、その…。」
(これは桜です。
小さい花…、)

目の前に差し出された桜に、驚いた顔をした男は、まず弥槻を見て、桜の花を見て、もう一度弥槻を見た後、何故かシュヴァーンの表情を窺ってきた。

「……何だ?」
「This…, the thing which I may get?」
(これ…、俺が貰っちゃっていいの?)
「……何言ってるか分かんないっつの…。」

雰囲気と口調から、「貰っていいのか」と聞いているのだろうが、確実ではない。
弥槻も、彼が何と言っているか分からないらしい。
だが、言っていることは分からなくても、言いたいことは伝わるはずだ。

シュヴァーンは、自分の言葉で語らなければ、何を言っても嘘になると知っているのだから。

「…いいか?
これは、弥槻が、お前にプレゼントしたの。
花だからすぐに枯れちゃうだろうけど、それまで大事にしてくれよ?」
「……I understand.
It is a present from a princess.
It prizes, even if it does not say.」
(……分かった。
お姫様からのプレゼントだ。
言われなくても大事にするさ。)

身ぶり手振りを交えて、ゆっくり男に話し掛ければ、彼は真剣に聞いてくれた。
すべて言い終わる前に、落ち込んでいた男は、嘘のように笑顔を浮かべる。
相変わらず何を言っているのかは分からないが、遠かった距離が縮まったような気がした。
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