常闇の光

□芽吹く
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「ハルルの花のようだな。」
「ハルル?」

シュヴァーンの呟きに弥槻が食い付いてきた。
知らない世界の話を聞きたいと思う好奇心のせいだろう。
桜の花びらを手に、小さく笑ったシュヴァーンは、弥槻の期待に応えるように話し始めた。

「ハルルという街に、結界魔導器を吸収した大木がある。
花が咲く時期はそれはそれは幻想的な光景になるらしい。」
「えっと、結界魔導器が魔物から街を守ってるんですよね?
大樹に護られた街かぁ…。」

ー…ズキンっ。

「ー………っ!?」

ハルルの事を話した時、シュヴァーンの胸に痛みが走った。
だが、それも一瞬の事。
突然走った痛みは、同じ様に突然消え去った。
弥槻はシュヴァーンの異変に気付かなかったようで、まだ見ぬハルルの街を想像してはしゃいでいる。

「……っ、確かに、幻想的な光景にはなるけど…っ。」
「………けど?」
「樹が衰弱すると結界も弱まる。
そうなると魔導器の専門家だけじゃなくて、樹木医も必要になるの。
大変らしいよー?」

話しているうちに、痛みは完全に引いた。
弥槻に気付かれないように笑みを作るが、その笑みが堅いものでないことを願った。

「シュヴァーンさん!
ほらっ、これが桜の花!」
「意外と小さいんだな。
……って、これ取っていいのか!?」
「きっとバレない大丈夫ですよ。」

弥槻の手に咲く淡色の花は、小さく可憐なもの。
これがハルルの街のような光景になるのに、一体何輪の花が咲くのだろうか。
まだ三割も満たない今は、花を数えるのも容易い。

「あと十日もしないうちに、桜は満開になるはずです。
お花見に行きましょうよ!」
「……オハナミ?」
「あー…、ピクニックに行きませんか?
桜を見るついでに!」
「ピクニックがついでなのね。」

からかうつもりは無かったのに、弥槻にはそう聞こえたらしく、素早く脇腹をつつかれた。
やり返そうにも、シュヴァーンの両手には荷物。
片手にまとめている間に、彼女は素早く距離を取り、反撃は叶わなかった。
しかも…。

……ドンッ!

「ひゃっ!?」
「Oh! You are a tomboy, in addition the princess.」
(おっと!君はお転婆なお姫様だね。)
地図と睨みあっていた男に、思い切りぶつかってしまった。

男は友好的な笑みを浮かべてはいるが、何を言っているのかがシュヴァーンには全く分からない。
弥槻もそれは同じだったらしく、すぐさまシュヴァーンの後ろに隠れてしまった。

「……アイムソーリー…?」
「No problem.」

ぎこちない言葉を発した弥槻に、悪戯っぽくウインクを返した男は、思い出したように地図を広げる。
その地図の一点を指し、何か喋りだしたが、やはりシュヴァーンには何を言っているのかさっぱりだ。

「I would like to go to this park that is a cherry blossoms viewing spot.
Can't it ask for guidance?」
(桜の名所であるこの公園に行きたいんだ。
道案内を頼めないか?)
「チェリー…ブロッサム…?公園…?」
「Yes! Cherry blossoms.」
(そう!桜。)

考え込むように呟いた弥槻は、辿々しく男と会話を始めた。
彼女も分からないのだと思っていただけに、シュヴァーンは弥槻に置いていかれたような妙な気分だ。

「……何を言ってるんだ…。」

シュヴァーンの言葉に、弥槻にも、男も反応を返してくれなかった。
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